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野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む

危機の本質は「スーパーシニア・リスク」
その対処で金融機関の明暗は分かれた!

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第51回】 2009年12月26日
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 前回、JPモルガン・チェースが金融危機をくぐり抜けたこと、それに対して、リーマン・ブラザーズは破綻し、シティグループ、メリルリンチも大きな損害を受けたことを述べた。

 金融機関によるこのような差は、なぜ生じたのだろうか? それは、リスクに対する態度と対処の差によって生じたのである。ただし、「リスクに慎重だった」とか「無謀な投資をした」というような、一般的で概括的なことではない。

 これは、「スーパーシニア・リスク」と呼ばれる、かなりわかりにくい特殊な問題にかかわることである。そして、実は、これこそが今回の金融危機の本質であったのだ。

 これに関する事情は、金融危機に関して一般に持たれている理解とはかなり異なるものである。しばしば、今回の金融危機は、「アメリカ流の貪欲金融資本主義が、金融工学を駆使して無謀な投資を行なったことによって引き起こされた」と言われる。

 貪欲に利益を追求して無謀な投資を行なった金融機関があったのは事実だ。しかし、それは金融工学を駆使して行なったことではない。まったく逆に、金融工学やファイナンス理論の専門家が警告を発したにもかかわらず、無知な経営者がそれを無視して行なったことなのである。一方、金融機関のなかには、ファイナンス理論の警告を十分重く受け止め、それに対処したところもあった。前者がリーマン・ブラザーズ、シティ、メリルリンチ、UBSなどであり、後者がJPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックス、ドイツ銀行であった。

 「スーパーシニア」とは、その名が示すとおり、「最も安全」と考えられていた金融資産だ。それが問題を起こすのは、小惑星が地球に衝突するほど「ありえないこと」と考えられていた。「そんなことにこだわって利益のチャンスを逃したり、余計なコスト負担をしたりするのは、まったく馬鹿げたこと」というのが、金融界の常識だった。だから、多くの金融機関はスーパーシニア・リスクを無視した。しかし、それにとことんこだわった金融機関もあった。この違いが金融機関の命運を分けたのだ。

CDSの「発明」による信用リスクの移転

 「スーパーシニア・リスク」について説明するには、CDO(債務担保証券:Collateralized Debt Obligation)について説明する必要がある。そして、それについて説明するには、最初にCDS(クレジット・デフォルト・スワップ:Credit Default Swap)について説明する必要がある。

 CDSとは、債権の貸し倒れに備えるための仕組みである(これは、ファインナンスの専門家が「プットオプション」と呼ぶものの一種だ)。CDSの保有者(保証の受け手)は、保有している債権が債務不履行に陥ったとき、債権額の全部または一部を保証してもらえる。CDSの売り手(保証の提供者)は、その額を負担する義務がある。

 ここで重要なのは、「CDSは保険とは違う」ということだ。しばしばCDSは、「保険のようなもの」と説明される。たしかに、保証を受ける側から見れば、問題が生じたときに損失を補填してくれるという意味で、保険と同じだ。

 しかし、引き受けるほうから見れば、全然違う。保険の場合には、保険の引き受け手は、損失額を支払うわけではない。損害を受けたものが受け取る保険金は、保険加入者が共同で負担するのである。しかし、CDSの場合には、売り手(保証の提供者)が実際にそれを負担するのだ。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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