目標必達主義の弊害を実証的に示した研究報告を紹介。「困難で具体的な達成目標」、そして従業員による「倫理的正当化」が合わさると、不正が生じやすいという。


 2001年、世界屈指の巨大エネルギー企業だったエンロンが破綻したときには、実業界に衝撃が走った。組織的な不正や詐欺、腐敗が会社全体に蔓延していたことが明らかとなり、企業における非倫理的行為が壊滅的な結果をもたらすことが示されたのである。

 エンロン・スキャンダルが突きつけた根本的な疑問は、そうした行為がそもそもなぜ始まり、しかも慣行化されたのか、である。答えの1つとして、第三者調査委員と会社側当事者の双方が示した見解がある。それは、エンロンでは従業員に対して、厳しい達成目標を具体的に定めるという慣行があり、それが不正行為の核心にあったということだ。

 目標設定は、従業員のモチベーションとパフォーマンスを高めるためにマネジャーが用いる1手段として定着している。目標は、ほとんどの人事考課プロセスに欠かせない一部であり、給与や報酬、ボーナスにリンクしている場合が多い。

 一方で、目標と不正行為との関連も指摘されている。具体的で困難な達成目標を設けることは、不正や虚偽報告の原因になる。このことはエンロンやその他の企業スキャンダルだけでなく、ますます多くの学術研究でも示されている。

 筆者らはこの知見に背中を押され、目標設定と不正行為の関連性をより詳しく調べてみることにした。特に知りたかったのは、次のような素朴な疑問への答えである。もし目標設定が不正行為の原因になりうるなら、それが企業でマネジメント慣行としていまだに広く根づいているのはなぜか。また、目標設定の普及度ほどには不正行為が蔓延していないのはなぜなのか。