団塊世代による医療・介護支出の
「スペンディング・ウエイブ」が生じてもおかしくない

 しばしば、「少子高齢化のために、国内市場が縮小するので問題だ」と言われる。自動車や家電製品、あるいは住宅について見れば、確かにそのとおりだ(注1)。たとえば、自動車の国内販売台数は、1996年に700万台超のピークに達してからはほぼ傾向的に減少を続け、2009年には450万台程度にまでなった。

 しかし、すべての財やサービスに対する需要が、高齢化によって減少するわけではない。高齢者人口が多くなれば、医療や介護に対する需要が増加する。だから、団塊世代の高齢化による「スペンディング・ウエイブ」がこれから生じても決しておかしくない。80年代の末に不動産価格のバブルが発生したが、それは、団塊世代の住宅購入時期とほぼ重なっている。これからの日本で、医療や介護がバブルを起こしたとしても、決して不思議ではないのである。

 もちろん、医療や介護に対する需要は、自動車や家電に対する需要とは、いくつかの点で異なる性質を持っている。したがって、高齢者数が増えるからと言って、直ちに医療や介護の消費が拡大するとは限らない。それが以下で議論される問題である。

(注1)ただし、それが物価下落の原因だとするのは間違っている。物価動向は、需給ギャップにあまり影響されないのだ。このことは、経済危機で総需要が急激かつ大規模に減少したにもかかわらず、09年の消費者物価が上昇したことをみれば明らかだ。物価(とくに製造業の製品)は、国際的な市場の価格によって決まる面が強い。90年代以降の物価下落は、基本的には新興国の工業化によってもたらされたものである。

日本の医療費支出は少ない

 まず医療費を取り上げよう。

 【図表1】のA欄には、OECD諸国における総医療費のGDPに対する比率を示した。