ニューヨークと東京を往復し、世界中の書籍コンテンツに精通するリテラリーエージェント大原ケイが、トップエリートたちにいま、読まれている話題の最新ビジネス書を紹介する好評連載。第3回目は、英ファイナンシャル・タイムズ紙とコンサル社マッキンゼーが選ぶ「今年のビジネス本」最優秀作候補について。

『WHAT WORKS』<br />ダイバーシティー教育やメンター制度に意味はない?<br />バイアスが男女格差を生むなら、システム・デザインごと変えてみる発想へ

打ち破られなかった「ガラスの天井」

ついに今回の選挙でもアメリカ初の女性大統領誕生とはならなかった。全米で開票が進む夜、ニューヨークにあるガラス張りのコンベンションセンターには、事前の世論調査で有利とされていたヒラリー・クリントンの支持者がおおぜい集まり、確定の速報とともに「ガラスの天井」を打ち破ったシンボルとして、会場にはガラスの破片の形をしたトリコロールの紙吹雪が舞い落ちる予定だったという。

ガラスの天井、つまり女性がリーダーの地位に向かって昇進することを阻む有形無形の差別は、どんな国にも存在する。各国の男女格差を数値化した世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ」度の最新報告では、日本は調査対象145ヵ国で101位、G7主要国の中では最低だ。安倍政権は女性の活躍を成長戦略の柱に据えているが、具体的にどのような改革がなされているのか。

ひとところ流行った「~な男、~な女」というタイトルの本が影を潜め、今年は英語圏で「ダイバーシティー」「ジェンダー・ニュートラル」といった言葉をちりばめた本が目立った「BREAKING THROUGH BIAS」や「SAME WORDS, DIFFERENT LANGUAGE」などが読まれている。(未邦訳)

中でも、英ファイナンシャル・タイムズ紙とコンサル社マッキンゼーが選ぶ「今年のビジネス本」最優秀作の最終候補に挙がっていた「WHAT WORKS: Gender Equality By Design」(未邦訳)は、そのジェンダーギャップを埋めるビジネス・ソリューションを研究した1冊だ。著者であるアイリス・ボーネット教授は、ハーバード大学の国際開発分野の最高峰、ケネディー・スクールで行動経済学を教える傍ら、同大学院の学部長として、いかに入学生や教授陣に男女差別なく優秀な人材を選ぶかに尽力してきた。

男性だけでなく、女性自身もが内在させているバイアス(先入観)を、どう取り除くか。時に解決法はこれ以上ないほどシンプルなことであったりする。例えば、アメリカのトップ5とされるオーケストラにおいて、70年代まで女性楽団員の割合は5~8%に過ぎなかった。それがボストン交響楽団で始められたある方法によって、今では40%近くにまで上昇している。その方法とは…blind audition、入団志願者についたての向こうで演奏させることだった。男性がハープをつま弾こうが、女性がコントラバスを演奏しようが、奏でる音楽が美しければいいはずなのだから。