このような「パワハラ過敏症」とも言うべき事態が起きている背景には、職場の上司世代と部下世代の間で、会社や働き方に対する考え方のギャップが拡大していることがある。前述のような「職場の構造変化」により、会社の「仲間意識」が崩壊しているのだ。

「口うるさい上司も多いが、会社組織という大船に乗っていれば、いつかは自分も権限を持てるようになる」「後輩が入り、部下ができれば立場も変わるだろう。だからイヤな上司の下になっても、ぐっと我慢しよう」

 かつては新人でもそういう希望を持てたが、成果主義の職場では、そのような意識が芽生えづらい。上司は以前と変わらず会社の同僚を“仲間”と捉えているのに対して、部下の多くは同僚はおろか先輩や上司までも「将来の競争相手」と考えている。

 そのため社員は、上からささいな注意や指導を受けただけでも、自分の評価を脅かされまいと躍起になりがちだ。「パワハラ」という名目を用いて保身を図ったり、悪質な場合は故意に上を貶めようとするケースもあるだろう。

部下をカラオケに誘って訴えられた部長
新人の共謀により異動させられた課長

 こういった状況が、パワハラに関する議論をより難しくしている側面はある。パワハラに悩む人がいれば、一方で「パワハラ冤罪」に悩む人もいる。今回取材に応じてくれた人のなかには、以下のようなケースもあった。

「社内研修を終えて秋に配属された新人は、部長のことが気に入らなかったらしく、上層部に対してたびたび『パワハラを受けている』と訴えていたようです。話を聞いたら『新人歓迎会のカラオケの席で、無理やり歌を唄わされそうになった』とのこと。その場に僕もいましたが、部長も『君の歓迎会なんだから、一曲歌ってくれないか』と言っただけで、あとはしつこく強要している雰囲気はありませんでした。確かに、僕も付き合いのお酒の席で少し嫌気がさすことはありますが、むしろ得るものも多いんですけどね……」(30歳/証券会社/勤続7年)

 この部長が、上層部からお咎めを受けることはなかったそうだが、なかにはこんな笑えないケースもあるようだ。