引退は夢のまた夢

「これからは一生現役の時代が来る。ライフスタイルが大きく変化する。国家財政上も人口動態面からも、われわれの優雅な引退を次世代が支えてくれることはない。引退したら自分を養えなくなる」。ジャンクボンドの帝王と呼ばれた、マイケル・ミルケン氏が私の目の前で言い切った。がんとインサイダー取引による服役、この二つの困難を克服して、さらに自信を増したミルケン氏の発言に会場は引き込まれた。

 場所はモスクワ。ロシア政財界のトップが集結し、経済金融問題を中心に議論するロシア・フォーラムでの一幕だ。

 私もパネリストとして招待されたが、とにかく豪華メンバーだった。ダボス会議の金融経済周りの人材が大挙モスクワに移ってきた感じだ。ミルケン氏の他にもローレンス・サマーズ元米国財務長官、ノーベル賞経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ教授、金融危機を予測したヌリエル・ルービニ教授ら。ロシアからはアレクセイ・クドリン副首相兼蔵相、同国最大手銀行ズベルバンクのヘルマン・グレフ総裁、当フォーラムの主催者は、ダボスの大口のスポンサーでもある、ロシア最大の投資銀行トロイカ・ダイアローグのルービン・ヴァーダニアン社長なのだ。

 日本もロシアも人口減少国。その間に位置する経済が好調の中国も韓国も日本より少子高齢化が進む。アメリカだけが人口増加だが、やがてこの国も人口減少に陥るとミルケン氏は予測する。

 経済・金融・政治の叡智が集まって、今後の世界経済を予測するために議論。そのテーマの一つが人口動態だった。ミルケン氏は「20年前に比べて、今の時代、年齢は20歳は引いて考えなければならない。60歳なら40歳だと自覚すべきだ」と断言。

・“年だから”なんて自分に限界を設定するような考えが最も危険、
・一生通じて、新しいことを学び、常にイノベーションを起こせる人的資本であり続けねばならない、
・金融商品よりも、健康や新しい知識にこそ投資をすべき、
と強調した。

知識集約型経済への移行が
人口急増に歯止めをかける

 私も同感だ。東アジアや北欧で急速に進む少子高齢化は、やがて世界中に広がる。今世紀の最大のテーマは世界人口の縮小だ。少し前までは途上国中心の「人口爆発」が懸念されていた。それらが食糧やエネルギー資源の持続可能性の脅威だと考えられていた。しかし今や世界は「人口破綻」をテーマに議論を始めている。