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三流の維新 一流の江戸
【第14回】 2017年1月4日
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原田 伊織

徳川慶喜の大政奉還に隠された
深刻な事情

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岩倉具視と大久保利通が作った密勅

 そこで、岩倉具視や薩摩の大久保利通たちはどうしたか。
 偽の勅許(ちょっきょ、密勅)を作った。
 偽の「討幕の密勅」である。
 これは、天皇、摂政の署名もなければ花押(かおう)もないという“天晴(あっぱ)れな”偽物である。

 ところが、慶喜サイドではこれを「密勅が下る」と解釈した。
 教養人慶喜は、まさか大久保たちが勅許の偽物を作るなどとは考えもしない。
 密勅とはいえ勅許が下ることは、幕府としては避けなければならない。

 そこで、先手を打って大政奉還に出たのだ。
 これによって「討幕」の大義名分を消滅させたのである。

 政権を返上した者を討つということが、論理的にできないことは説明するまでもない。
 大政奉還を行っても、所詮朝廷に政権運営能力はない。
 つまり、幕府に代わって六十余州を統治する能力はない。
 慶喜がそう読んだことは明らかである。

 形式、体制はどうあれ、大政奉還後も実権は依然として徳川が握ることになるという“政局判断”であり、事実この判断、読みは間違っていなかった。

 朝廷には、政権担当能力は勿論、その体制そのものが存在しなかったのである。
 事実、大政奉還から僅か一週間後、朝廷は、外交については引き続き幕府が担当することを指示している。

 列強との外交諸問題が緊迫していた時期である。
 朝廷も、それ以外に為す術(すべ)がなかったということだ。
 諸外国への新潟開港の延期通告事務は、結局幕臣官僚が行っている。
 冷静にこの時期の我が国の置かれていた政治外交環境を思い返してみると、よく分かるはずだ。

 世にいう黒船の来航は嘉永六(1853)年のことであった。
 徳川慶喜が大政奉還という挙に出る十四年前のことになる。
 京が長州人を主としたあぶれ者たちによるテロによって血塗られたピークは文久二(1862)~三(1863)年頃である。

 この十年間というもの、幕府は、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、プロシア等を相手にして、次々と和親条約、通商条約の締結を迫られ、独立と国益を守るべく必死の外交交渉を続けてきたのである。

 討幕の意思を秘めた薩摩と長州の過激派は、そういう幕府の足を引っ張るだけでよかったのだ。
 国家が危急の際には、人材が現れる。よくしたものである。

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