TORICO社長 安藤拓郎
Photo by Toshiaki Usami

 安藤拓郎は1998年に大学を卒業後、日本オラクルや三井物産などで勤務。三井物産在籍中に、自分でデザインしたオリジナルのスニーカーの製造を、中国企業に依頼。TORICOというブランドで売り出すと、数ヵ月で100足売れた。

 これに気をよくした安藤は、ベンチャーキャピタルを訪ね自分を売り込む。あっさり出資が決まり、2005年にTORICOを設立した。
 

設立初日からいきなり危機に
資本金を食いつぶす

 ところが、会社を設立してみると靴が売れない。最初の1ヵ月は1~2足しか売れず、その後も同様のペースが続いた。

「スニーカーには熱烈なマニアがいてマイナーなブランドでも1足は買う。100足がすぐに売れたのはそうした収集家が買っただけだったと会社設立後に気づいた」

 会社設立とともに、大ピンチが訪れたのである。毎月20万円ほどが事務所費用や自身の活動費として必要だった。一方で、売り上げはほぼゼロ。しかし、安藤は焦らない。

「資本金が1000万円もあるのだから、20万円ずつ減っても何ヵ月かは持つだろう」

 時間をかけて自社の取るべきビジネスモデルを探し続けた。

 会社設立から1年後、「さすがにそろそろまずいかな」と思い始めたときに、ふと思い浮かんだモデルが、漫画を全巻揃えて販売するサービスだった。

 安藤は週末、漫画やDVDを朝から晩まで見続けることが多いという。

 そのときに「漫画が全巻買えるサービスがあったらいいな」と思ったことがきっかけだ。06年、「漫画全巻ドットコム」を開設。人気漫画を数十作揃え、クリック一つで全巻が購入できるようにした。

 当時、この手のサービスはほかになく、目のつけどころはよかったといえる。しかし、サイトの裏側ではなんともアナログなことが行われていた。注文が入ると、安藤自身がバイクで都内の中古書店を訪ね全巻を買い集めていたのだ。

 ところが、開始1ヵ月の売り上げがいきなり、50万円を超え、その後も急増していく。全国の中古書店に電話して何百冊も集めるようになった。しかし、それでも注文分を確保できない。

 また、「人気漫画の中古相場はほとんど新品と変わらない」。TORICOの仕入れ価格も高くなるし、利用者にとっても新品価格との違いがなくなってしまう。