投機筋の片棒担ぐ英米メディア
「エジプト革命は拡散する」「中東ドミノだ」と大騒ぎしていた英米メディアがここに来て少しトーンダウン。中東で取材を重ね、現地情勢を学んでいる。危機をあおり、商品価格の乱高下で儲ける投機筋の片棒を担いでいたことをさらに反省すべきだ。ところが、日本の識者が、時間遅れで中東ドミノだと騒ぎ始めた。
経済も金融も地政学をさらに導入する時代に入ったので、われわれは今までよりいっそう地域の経済・社会・歴史を勉強しなければならない。逆説的な言い方だが、各地域の細部にこだわらないと広い世界は見えてこない。
中東大産油国に政権転覆の心配は全くない。政権転覆の可能性があるとしたら、湾岸産油国の中で一人当たりGDP2400ドルと飛び抜けて貧しいイエメンだけだ。イエメンは中東湾岸諸国の中で唯一共和制を取り、確固たる野党勢力もいる。
世界中のメディアがあれだけ騒ぎ立てたバーレーンでさえ、シーア派の地位向上が約束され、体制崩壊どころか事態は収拾し始めた。北アフリカではリビアのカダフィはもたないだろうが、これは今後の石油生産や原油取引には前向きに評価してもいいくらいのポジティブニュースだと思う。
いかなる主権国家もそう簡単に崩壊しない。それが潤沢な国家財政と士気の高い“暴力装置”や優れたネット監視体制を持つ中東大産油国ならさらにそうだ。そして彼らは百戦錬磨なのだ。豊富な権益を持つため、多くの戦乱や交渉を経てきた。それらから学び、事を運ぶに用心深く、危機対応力に長ける。中東の大産油国はエジプトやチュニジアの失敗から素早く学び、同じ過ちを犯さない。
そもそも今回のチュニジアから始まっている政権転覆劇は政治問題というより、経済問題である。明日の見えない失業下でのインフレという爆発的な経済的不満が原動力になっている。この不満がないところに火種はない。
民主化ではなく経済問題
拡大する貧富の格差を放置し、富を独占する長期独裁政権に対し、金融・経済のグローバル化が引き起こす失業とインフレに苦しむ市民が反乱を起こしたのだ。その証拠に、すでに政権転覆が起こったチュニジアやエジプトのその後をみると無政府状態に陥りそうになっている。民主化のオプションがあって始まったデモではない。チュニジアやエジプトが無政府状態、その後軍事政権に近い形で収束した場合、興奮と熱狂が、落胆になって周辺諸国に逆に広がるのではないかと思う。