60年ぶり、ハーバード卒の
プロバスケットボール選手

 アメリカ中を熱狂させているアジア系プロスポーツ選手がいる。残念ながら、ダルビッシュでもイチローでもない。アメリカのプロバスケットボールリーグ、NBAの新しいスター、ジェレミー・リン選手だ。このリン選手、いろいろな意味でユニークな選手なのだ。

 生れはシリコンバレーのど真ん中、カリフォルニア州パロアルト。台湾系アメリカ人でハーバード大学卒。ハーバード大卒のNBA選手というだけで、1954年のエド・スミス氏以来、58年ぶり。台湾系NBA選手は史上初だ。これだけでもきわめて異例な存在だ。

 ハーバードに入った経緯もNBA入りした経緯も波瀾万丈。当時、地元パロアルト高校で知らない者はいないと言われたほどの有名選手。キャプテンとしてチームを率いた05-06年のシーズンでは32勝1敗という驚異的な勝率を誇った。それなのに、アジア系ということで有名大学のスカウトは無視。バスケットコートで練習していると「今日はバレーボールの試合はないよ」(アジア系にできるのはバレーで、バスケットは下手という偏見)と辛らつなジョークを言われたこともあるという。

 ということで体育学生奨学金制度のあるスタンフォード大学もスカウトしなかった。サンフランシスコ大学のコーチ、レックス・ウォルターズは、NCAAのドラフトルールがリンに不利だったと語る。「殆どの大学が、選手を最初の5分間だけ見て、すごく速く走るか、すごく高くジャンプするか、など簡単にすぐ評価できることで選ぶ」。今ではリン選手をスカウトしなかった当時のスタンフォード大学バスケットボール部のスカウトが「大学の道の前をこんな選手が毎日歩いていたのに、なぜ気付かなかった!?」と袋叩きにあっている。

 リン選手本人も「私のゲームを理解してもらうには、二度以上見てほしい。派手なこともしないし、すごい身体能力があるわけでもないから」と当時を振り返る。「前例を無視して革新を目指す」というベンチャー魂が校風のスタンフォードでも、実情は「アジア系バスケットボール選手の可能性」を発掘できなかったのだ。