日常から「発見」するための、非日常的視点:トヨタの失敗

 発想力とは、発見と探究の組み合わせでした。その中でも、価値ある発見は「非日常的な視点で日常を見つめること」から、生まれてきます。

 ・非日常的視点→日常的状況

 前回取り上げた「宇宙人の視点」も、まさにそうです。宇宙人ゴエモンという、非日常的な視点を通して、日常的日本の風景に潜むおかしさが、あぶり出されたわけです。

 もちろん日常的視点で、非日常的な状況を見ればさまざまな気づきがあるでしょう。見たこともないものを見るわけですから、当然です。でも、残念ながらそれを直接、今の仕事に活かすのは難しい…。

 昔、トヨタ自動車のレクサス開発部隊のヒトたちは、「ユーザーであるカネ持ちのヒトたちの感覚を知らにゃいかん」と、帝国ホテルのスイートルームを1ヶ月間借り切って生活してみたそうです。もちろん皆、初めての経験です。

 1ヵ月後に出た結論は、「ようわからんわ」でした。

 見つけるべきは「日常的に帝国ホテルに泊まる人にとっての、車への新しいニーズ」でしたが、その圧倒的「非日常的経験」に押し流されて、そこまでたどり着けなかったわけです。

 トヨタ開発陣にとってやるべきことは、自分たちがカネ持ちになりきることではなく、もともとカネ持ちのヒトに「非日常的視点」を与えることだったのかも知れません。

日常からの「他人視点」での発見:花王のニュービーズ

 花王の生活者研究センターは、消費者に対する大規模調査でも有名ですが、結構安上がりな「発見」手法も使っています。それは「生活シーン写真の相互観察」です。

 研究員たちが、自分たち自身の生活の中で写真をとりまくって、それを持ち寄ってみんなで見て発見を指摘し合う、という割と単純なものです。自分の生活シーン写真を、自分で見ても発見はないけれど、他人の視点で見ることで何かが見つかるわけです。

 ある日、若手研究員が撮ってきた小学校での授業参観風景を見て、ベテラン上司は「違和感」を感じます。「最近は、参観日でもTシャツなんだな」

 昔は、堅いフォーマルな服装で行くものだった授業参観。今やTシャツがそれに取って代わった…。若い親たち自身では見つからなかった「発見」でした。

 でもそのTシャツは、その親の「勝負Tシャツ」かもしれない。500円でなく、5000円の大切なTシャツかもしれない。ということはカジュアルウェアを「丁寧に洗いたい」というニーズがあるのではないか。