電子書籍のハード面も一通り出揃い、いよいよ各出版社も本格的に書籍の電子化へ動き出す兆しが見えて来た。
そんななか、フリーペーパーも電子書籍へと移行しつつある。フリーペーパーと言えば、駅前で配布しているか、人の出入りが激しいところに置かれているのが常だ。電子書籍化すれば、流通経費を削減できるだけでなく、紙代や印刷費も節約できるという大きなメリットがある。
だが、電子書籍化されれば、そのためにわざわざフリーペーパーサイトへアクセスする必要性が出てくる。そうなるまでには高額な宣伝費や、話題性が必要になるだろう。
また、書籍を電子化するには多額のコストがかかるのを、ご存じない方も意外と多い。そのためフリーペーパーの電子書籍化は、下手をすると今までスポンサーになってくれていた企業も二の足を踏むという、大きなデメリットを背負い込むことになりかねない。
兵庫県神戸市でフリーペーパーを発行している、株式会社神戸AD WAVEでは、「FURATTO」(フラット)というフリーペーパーを電子書籍化して発行している。同社の熊沢社長からお話をうかがった。
まず、特徴的なのはBGMや記事の読み上げ機能が付いている点だ。熊沢社長は、読み上げ機能を追加した意義についてこう語ってくれた。
「弊社の一番の夢は、視覚障害者や高齢者にも楽しんでもらいたいということ。視覚障害の方であれば、音声で現在の情報を共有することもできます。介護施設でも、本のデジタル化はご高齢で文字が見えにくい方にも楽ですし、聞きとることで脳が活発に動くようになる可能性も。また介護士の方も、本を読み上げる仕事の量が減るのではないでしょうか」
さらに今後は、動画も電子書籍に添付することが可能なため、小さなお子さんもお母さんと一緒に楽しんで貰えるよう検討中だという。
フリーペーパーの電子書籍化による最大のウィークポイントである、「サイトにどうやって人を誘導して来るか」についても、前向きな考え方を持って実践している。
「弊社では従来通り“紙”を媒体として、月に1万5000部ほど配布させていただき、ウェブ誘導活動を展開しております。また、ありがたいことに掲載店様も、口コミやブログで応援してくださっています。やはり、まだ触れて読む『紙媒体』は強いです。ただし、その紙媒体ではコストがかかり過ぎるので、ある程度以上の情報は電子書籍版『FURATTO』でご確認ください、と誘導しております。そうすることで、電子書籍の記事からリンクが張ってある掲載店HPへのアクセス数も上がりますので。ネットとリアルの融合が、現時点での主体ではないでしょうか」
その他の機能として、「PC版では共有機能を利用いただくことで、付箋メモやペンで印を付けられた情報を、メールやツイッターでご友人の方に情報を共有いただくことが可能です。またスマートフォン版は、標準機能のグーグルマップや、リンクから地図情報を紐付けて、目的地(掲載店舗)に誘導や問い合わせを簡単に行なうことができます。スマートフォンからのリンク掲載は、店舗側にとっても有益な機能だと思います」と、電子媒体という機能を十分に活かした、新しい試みも行なっている。
なお、熊沢社長は阪神・淡路大震災の被災者でもある。「友人が震災で家屋が全焼し、何もかもなくなってしまったと聞きました。そのなかで悲しかったのが、アルバムがなくなったこと。多くの方が写真を提供してくだされば、デジタルアルバムにして、同じように被災された方に渡してあげることができると考えています。エコ、経費削減だけでなく、常に私は電子書籍の用途を様々な可能性・アイディア(企画)を持って、無機質に思えても人の温かさが残るもの、伝わるものを作り上げたいと思っています」とフリーペーパー以外についての可能性についても、アイディアを巡らせている。
電子媒体という長所を巧みに利用しながら、現実を直視しつつ夢を実現していく熊沢社長の姿勢から、フリーペーパーの電子書籍化に新しい側面を垣間見た気がした。
(木村明夫)