「幸せ食堂」繁盛記
【第四一回】 2017年1月23日 野地秩嘉

帯広の人気ベーカリーが東京にやって来た!
国内産の原料にこだわり抜いた
「町のパン屋」の傑作店、都立大学にオープン

小麦、牛乳、バター、チーズ、小豆…すべて国産100%

 帯広に本店を持つパン屋、満寿屋商店。昨年末、目黒の都立大学にも店舗を構えた。同店がある都立大学、自由が丘、学芸大学はフランス風のパン屋「ブーランジェリー」が集まる激戦区である。ブーランジェリーが出しているのはバケット、カンパーニュなどのハード系、クロワッサン、パン・オ・ショコラなどのヴィノワズリーが主だ。そのあたり一帯はおしゃれなフランス風パンの店が占拠しているのである。

 ところが、新参者の満寿屋は食パン、アンパン、クリームパン、コロッケパンなどが主力のベーカリーだ。つまりは「町のパン屋」である。おしゃれというよりも、庶民が好む味だ。しかも、ベーカリーはいまや町の商店街からも消えつつある。そのうえ、満寿屋といっても帯広では有名だろうけれど、都内では無名そのものだ。「すぐにつぶれるだろう」――店の開店チラシを見て、わたしはそう思った。

 ところが違った。わたしがバカだった。同店は11月末にオープンしてから、連日、400人近い客を集めている。満寿屋は近隣のおしゃれなブーランジェリーから客を奪い、パンの激戦区でトップランクの人気店になったのである。なかには買ったばかりのパンの袋を抱え、近所にある公園、パーシモンホールのベンチに腰掛けて食べる人もいる。

 さて、満寿屋の勝因は何なのだろうか?

 東京店にやってきていた同社社長の杉山雅則に聞いた。

「うちのパンは十勝産小麦100パーセントです。副原料の牛乳、バター、チーズ、アンパンに使う小豆、コロッケパンのじゃがいもなどもすべて十勝産です。水も帯広の隣町、音更(おとふけ)の天然水を取り寄せています」

 同店のパンはすべて国内産原料で、作られたものだった。それが勝因だったのである。

 なんといっても国産のパン用小麦シェアはわずか3パーセントと言われている。十勝に本店がある店だからこそ、地元で獲れた国産小麦を使うことができるのだ。そして、満寿屋のように、国産原料でできたパンだけを売っている店はほぼない。

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野地秩嘉 

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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