「幸せ食堂」繁盛記
【第十四回】 2015年10月22日 野地秩嘉

値段を上げないため、日々、知恵を絞り、コストと戦っている東十条のとんかつ屋の獅子奮迅。今日もまた、フライが俺を呼んでいる!

これぞ、庶民の味方!

 東十条の駅を降りて約2分の場所にあるのが、とんかつの「みのや」だ。安い。うまい。とんかつがでかい。三拍子揃った庶民による庶民のためのとんかつ屋である。

 なんといっても量が多い。ロースとんかつは他店の1.4倍はある。カラッと揚がっていて、ころもと肉が密着している。ご飯の量は300グラム。ご飯茶わん1杯が150グラムだから、みのやのご飯は通常の倍だ。

 加えて、お椀ではなく丼に入った豚汁も量が多い。具は豚コマとキャベツがこれでもかと入っている。とんかつの付け合わせは山盛りの千切りキャベツとマカロニサラダ。

 それだけ充実していて、値段は定食が550円。

 しかも、看板メニューのロースとんかつ定食だけが安いわけではない。

 海老が2匹の海老フライ定食、アジが2匹のアジフライ定食、いかフライ定食、ささみチキンフライ定食、ハムエッグ定食も550円。メニューのなかでもっとも高いのが上ひれかつ定食。それでさえ900円。

 ポテトサラダ、マカロニサラダなども、「これをひとりで食うのか」と、たっぷりあって、250円。

 とんかつを食べているうちに浮かんでくる疑問は次のようなものだ。

「いったい、どうやって、これだけのものをこの値段で提供できるのだろうか」

 主人の原敏郎(53歳)は言う。

「うちは家族経営です。従業員を雇っていません。給料を払わずに済むから、なんとかやっていけます。それと、仕入れ先の協力があります。うちは昭和37年からやってます。仕入れ先はずっと同じです。先方は私たちが手ごろな値段で商売をしていることをよく知っているから、他よりも安く卸してくれるのです」

 安い値段で料理を提供するには大勢の人間が協力していることがわかる。 

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野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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