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安東泰志の真・金融立国論

竹中路線の全否定は正しいか
――財政金融政策の再検証

安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
【第6回】 2011年3月24日
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 「郵政民営化の見直し」が民主党・国民新党の公約であり、いわゆる「小泉・竹中路線」は、格差を拡大した元凶として手厳しく批判されている。一度基本に立ち返り、小泉・竹中路線の財政金融政策の目指していたものは何だったのか、それと比較して現政権の財政金融政策はどう評価されるべきなのかを考えてみたい。

小泉政権の基本理念と財政方針

(1)基本理念

 2001年4月に発足した小泉政権は、直後の小泉総理の所信表明演説において「改革なくして成長なし」の理念の下、「恐れず、ひるまず、とらわれず」の姿勢で既得権益や既成概念と戦う姿勢を明確にした。その理念や姿勢を具体化したのが、同年6月に発表された「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)である。

 そこでは、不良債権問題の抜本的解決を大前提とした上で、7つの構造改革プログラムが列挙されている。その中で、最も小泉・竹中路線の象徴となる項目が「民間でできることは民間で」という大原則に基づく、広範な規制緩和と民営化の主張である。この規制緩和路線は、その後「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」の中でも「民間の活力を阻む規制・制度や政府の関与を取り除き、民間需要を創造する」とされ、マクロ資金循環面についてはより具体的に「資金の面でも“官から民へ”の流れが戻り、家計の豊富な金融資産が民間の成長分野に円滑に供給されるよう改革する」と明記された。

 小泉政権が理想としていたのは、「21世紀の日本では、実力に見合った経済成長が実現する。そこでは、国民が自信と誇りに満ち、努力する者が夢と希望を持って活躍し、市場のルールと社会正義が重視される」(骨太の方針冒頭言)という社会であった。

(2)財政再建問題

 財政政策について特徴的なのは、「経済財政諮問会議において経済財政全般についての横断的な検討を行なう」という方針である。その根底にある思想は、骨太の方針の中に「我が国の諸制度は、戦後非常によく機能し、高度成長を支えてきた。しかし、現在ではそれがややもすれば非効率な(すなわち費用に見合う効果を生まない)事業等を生む仕組みになってしまっている」と記されているように、非効率でありながら硬直的に配分されてきた公共事業等の枠組みに対する問題意識であった。省庁縦割りの予算要求に基づき財務省が割り振るという従来の仕組みではなく、マクロ経済の状況と整合的に、しかも真に必要とされる社会資本整備に集中配分するための司令塔が経済財政諮問会議であった。

 そして、財政再建については、プライマリーバランスの黒字化を2010年代初頭に実現することが中期目標として明記されていた。2006年7月に発表された小泉政権最後の「骨太の方針」においては、その後のプライマリーバランス黒字化の定着に向けての方針は概ね以下のようになっている。注目すべきなのは、①成長戦略、②歳出削減、③主として社会保障制度維持のための増税の可能性、の3点のバランスを取っている点であろう。

・ 名目経済成長率3%程度の前提に基づいて、必要な改革措置を講ずる。
・ 経済社会情勢の変化に適切に対応しながら、基礎的財政収支を黒字化するという目標を達成していくため、歳出改革をするが、その内容について柔軟に対応。
・ 公平で持続可能な社会保障制度とするため、基礎年金国庫負担の2分の1までの引き上げに要する財源を含め、安定財源を確保する
・ 歳出削減を行ってなお、要対応額を満たさない部分については、歳出・歳入一体改革を実現すべく、歳入改革による増収措置で対応。
・ 歳出削減や歳入改革が経済成長にマイナスの影響を及ぼし、当初想定した税収が実現できなくなることも懸念されるので、財政健全化を着実に推進していくためにも、高めの成長を目指した経済成長戦略は不可欠の政策対応であり、両者を車の両輪として、一体的に進めていく。

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安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]

東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、1988年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。90年代に英国ならびに欧州大陸の多数の私的整理・企業再生案件について、参加各行を代表するコーディネーターとして手がけ、英国中央銀行による「ロンドンアプローチ・ワーキンググループ」に邦銀唯一のメンバーとして招聘される。帰国後、企画部・投資銀行企画部等を経て、2002年フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業し、代表取締役CEOに就任。創業以来、主として国内機関投資家の出資による8本の企業再生ファンド(総額約2500億円)を組成、市田・近商ストア・東急建設・世紀東急工業・三菱自動車工業・ゴールドパック・ティアック・ソキア・日立ハウステック・まぐまぐなど、約90社の再生と成長を手掛ける。事業再生実務家協会理事。著書に『V字回復を実現するハゲタカファンドの事業再生』(幻冬舎メディアコンサルティング 2014年)。
 


安東泰志の真・金融立国論

相次ぐ破綻企業への公的資金の投入、金融緩和や為替介入を巡る日銀・財務省の迷走、そして中身の薄い新金融立国論・・・。銀行や年金などに滞留するお金が“リスクマネー”として企業に行き渡らないという日本の問題の根幹から目をそむけた、現状維持路線はもはや破綻をきたしている。日本の成長のために必要な“真”の金融立国論を、第一線で活躍する投資ファンドの代表者が具体的な事例をもとに語る。

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