巨大地震、大津波そして原発事故――。日本は、言語に絶する大災害に直面した。しかし、いくら災害の規模が想像を絶しているとしても、政府の指揮命令系統の混乱が正当化されるわけでも、許されるわけでもない。災害救助研究の専門家として知られるハーバード大学のマイケル・ファンルーエン准教授は、日本の最大の問題は、国民に向けた公的メッセージの統一が図られていないことだという。たとえば、福島原発事故について、東京電力、菅内閣、経済産業省原子力安全・保安院の合同会見があってしかるべきだと同氏は提言する。
(聞き手/ジャーナリスト、瀧口範子)
――あなたは災害救助の専門家そして医師として、世界各地の戦争や災害の被災地で実際に救援活動に携わった経験を持つが、今回東日本を襲った大震災の惨状をどう見ているか。
(Michael VanRooyen)
ハーバード大学公衆衛生学部准教授で、同大学のヒューマニタリアン・イニシアティブの共同ディレクター。戦争や災害の被災地での救援活動や緊急医療について、各国政府やNGOに医学面・政策面でのアドバイスを行っている。コンゴ、ザイール、スーダン、ボスニアなど、被災地での医療活動は30カ国に及ぶ。その活動に関連して、リーダーズ・ダイジェスト・ヘルス・ヒーロー賞他、受賞多数。
地震、津波、原発事故は、本来ならばそれぞれに異なった一連の破壊や混乱を引き起こす深刻な災害だが、今回はそれらが同時に起こっているところに困難の源がある。災害時には通常、新しい問題が発生するごとにそのことについて喚起を促す指揮命令系統が必要だ。しかし、東日本大震災に際しては、その仕組みがうまく機能していないようだ。
特に福島原発事故では、問題の深刻さについてどのように国民に伝えるかという点において混乱している様子がうかがえる。ただ、日本は地震についても、原発問題についても、備えの面では世界でもっとも優れていた。一方的に批判することはしたくない。
――これほどの災害では、指揮命令系統の混乱も仕方ないということか?
そうは言っていない。今回の惨事は、考え得るどんな最良のシステムでも対応しきれないほどの深刻な出来事だと言っている。だから、日本政府を一方的に非難するようなことは避けたいのだ。同じ規模の災害がもし他の国で起こっていたら、(被害は)さらに拡大していただろう。
ただし、日本政府の対応に、課題がないわけではない。公的なメッセージの伝え方という点では、問題がある。被災地のコミュニティや住民、そしてさらに国民全体がこの危機をどう乗り越えるかについて、公的な声の統一が図られてないという問題だ。