日本では、一足先に人口減少が実際のものとなっているが、世界の人々にとって、人口問題はまだ現実的な課題とは言えない。この未来の問題を長期的視点で世界一のコンサルティング・ファーム、マッキンゼーはどう見ているのか。マッキンゼー・アンド・カンパニーの経営および世界経済の研究所所属メンバーが発表する刺激的な超長期トレンド予測が詰まった書籍『マッキンゼーが予測する未来――近未来のビジネスは、4つの力に支配されている』のさまざまな分析テーマを抜粋して掲載する。

日本の最大の問題は
ロボットが解決してくれる?

 ロボットが床を掃除してくれることは、珍しいことではなくなった。日本では、ロボットが執事の仕事をこなし、介護を助け、心を癒す友人へと急速に進化している。WAM(腕全体のマニピュレーター)として知られるロボット技術のハードウエアを使い、コンピュータ知能と腕を組み合わせ、日本の奈良先端科学技術大学院大学とバレット・テクノロジー社の共同開発チームの研究者たちは、人間が上着、シャツ、パジャマなどを着たり、脱いだりするのを手伝ってくれるロボットを開発した。

 京都のATRクリエイティブ社と大阪のヴイストン社が設計・開発した(ロボビーR3)という人型ロボットは、まるで「スターウォーズ」の映画に出てくるR2-D2というロボットに命が吹き込まれたようだ。ロボビーR3は、ショッピングモールの中を最大時速1.5マイルで買い物客の横についてまわり、高齢客の手を引いて混雑した店内を案内してくれ、おまけに買い物かごを持ってくれる。しかも、くたびれたからお茶を飲んで休みたい、などとはけっして言わないのだ。

 東京を初めて訪れた外国人が、この国の首都は未来都市みたいだと口にするのは、別に珍しくない。豊田市でプリウスを生産する高効率の自動車工場と同様に、日本の工場ではロボット機器が、人間による労働力をすでに長年にわたり置き換えてきた。しかし、ロボビーR3などのロボット製品は、製造といった産業用途以外の目的で設計されている。具体的には、人口の年齢の中央値が46歳で、65歳以上人口が24%を占める、世界で最も高齢化の進んだ日本という国ならではの、今現実にある人間のニーズを満たすための設計なのだ。

 高齢化に加えて、移民の流入はきわめて少なく、低水準の出生率(女性が一生のうちに産む平均的な子供の数は1.4名)の結果、増加する日本の高齢人口の世話をする人の数が足りない現状があるからだ。

 豊田市の市長がある会合で記者団に、日本はこの人口問題にどう取り組んでいけばよいのでしょうか、と尋ねられたことがある。その答えは、「たぶん、ロボットが解決してくれるのではないでしょうか」という、少しがっかりさせるものであった

 世界経済の分析家は、とかく成長期の若者の世界を描くことを好み、成人に育つのをただ待ちたがる。世界中のかなりの部分では、まさにそれが現実だ。パキスタンでは国民の年齢の中央値は22.6歳であり、人口の55%近くが25歳以下である。また、サハラ砂漠以南のアフリカでは人口の40%が15歳以下である。

 だから、あらゆる消費財メーカーやサービス業界の大企業も、今後増加する若い消費者の多い市場をどう攻略しようかと考えている。

 しかし、このことがコインの片面だとしたら、実はもう一つの面が存在し、それは今日世界中で明らかなことなのに、最も見過ごされているトレンドだ。第2次大戦後の何年かは、世界中の平均年齢が若くなるように見え、富める国も貧しい国も、ほぼどの国でも人口が増加した。予防接種の改善、幼児死亡率の低下、そして世界戦争による膨大な破壊の終息により好循環が生み出された。

 世界人口が増加し続けるにつれ、労働可能年齢層は歩調を合わせて増加し、経済成長を助長した。この人口統計学上の余剰は、大きな配当となって返ってきた。人が増えたことは、製品やサービス、住宅、学校の需要の増加につながり、それが雇用の増大と税収の増加を生み出した。しかも、技術進歩がこうした効果の増幅装置となり、増えた人口はそれまでより高い生産性で働くことができた。

 ところが今は、簡単に言ってしまえば、世界中の人口が老齢化している。こうした展開になることはかなり前からわかってはいたのだが、長期予測がまさに現実のものとなろうとしている。

 多くの大規模高度先進経済諸国、そして世界最大の新興国経済である中国でも、国民の寿命は長くなる一方で、人口1人当たりの子供の数は少なくなっている。ベビーブーム世代は高齢層に加わろうとしており、徐々に引退生活に入っている。その一方で出生率は急激に低下している。

 こうした複数のトレンドが組み合わさった結果、世界人口はもうすぐ転換点を迎えようとしている。今後何十年かのうちのどこかで、アフリカを唯一の例外として、世界中の大多数の国の人口カーブが、近代史の流れにおいて初めて横ばいになる。

 世界中で幅広い年齢帯は高齢人口となり、労働人口も高齢化し、政府の社会保障費用が膨らんでいくのである。この人口動態予測の点で、人口がすでに減り始めている日本は、今後変わっていく世界の姿を、先行して実際に見せてくれると言えるだろう。

 こうした数々の変化の方向を理解すれば、私たちがこれまで経験から導いてきた直観をリセットしなければならないことがわかるだろう。とくに老人について持っている考え方を変えなければならない。

 だが老人を、消費者として、顧客として、社員として、そして今後の世界の利害関係者であるステークホルダーとして、どう考えるべきなのだろう。