実際の事実とは別の過程や結果を想像することを、「反事実的思考」と呼ぶ。これは、失敗から学び立ち直るための恰好の手段になるという。


 あなたは今週、何かがうまくいかなかった、と仮定してみよう。たとえば、交渉が思い通りに運ばなかったとする。

 その後、あなたは何をするだろうか。友人と飲みに行く、夫または妻に話す、あるいは母親に電話をするだろうか。

 しかし、こうした行動は、単に問題を先送りしているだけである。またすぐに、失敗についてあれこれ思い返すことになるはずだ。何がダメだったのかを考え、自分を責めたり、他者や外的な要因のせいにしたりする。それに疲れると、過去のことは忘れよう、今後のことに集中しよう、と自分に言い聞かせる。

 これらは自然かつ当然の反応だ。しかし、心理的に苦しく、メリットも少ない。同じ失敗を2度、3度、4度と繰り返すのを防ぐことにはつながらないのだ。

 もっとよい方法がある。それは、簡潔で系統立った一連の問いを自分に投げかけ、それに自答するという心理的な手順である。反事実的思考(counterfactual thinking:反実仮想とも言う。実際に起こった事柄とは別の可能性を想像すること)に関する最近の研究に沿っていえば、この手順は難しくない。そして、失敗による苦しみを軽減すると同時に、次回によりうまく対処できるようになる。

 反事実的思考は、ほとんど誰もが常にやっている。「もし去年、昔の友だちに偶然再会しなかったら、自分はあいつの会社に入ってこんなにいい仕事に就くことはなかっただろう」「もし海外赴任を受け入れていたら、たぶん昇進できただろうなぁ」などだ。研究者たちは現在、この思考法をいくつかのタイプに分類し、いつどんな理由で実行されるのかを突きとめようとしている。まだ知られていないことも多い。

 複数の研究によれば、ある特定の反事実的思考法は、ネガティブな出来事から立ち直り、パフォーマンスを高めるうえで有効であることがわかっている。

 冒頭で挙げた、失敗に終わった交渉について考えてみよう。あなたの会社は顧客ニーズの変化に直面しており、より機敏になろうとしている。そこであなたは、ある重要サプライヤーに対し、年度の途中でも方針を変更できるよう、通常よりも柔軟な契約にしたいと申し入れた。しかし相手からは、契約期間を12ヵ月から6ヵ月に変更する以外の譲歩をまったく引き出せなかった。あなたも上司も、交渉は明らかな失敗だったと考えている。

 立ち直るために、あなたは先述のありがちな行為に頼る。自分には能力も運もなかった、と自分を責める。サプライヤーの四角四面な担当者を非難し、交渉の場に提供されたドライターキー・サンドイッチのせいにさえする。同僚と一緒にビールを流し込みながら、「ああ、もうしょうがない。教訓は得たよ。前に進もう」とうそぶく。

 しかし実際には、あなたは何も学んでいないし、まだ前に進むべき時でもない。

 その前に、次の5つのステップを順に踏んでみよう。