過労死等の事故が増え、政府の「働き方改革」でも法律で定められた上限を超えた長時間残業を罰則付きで規制することでほぼ合意されている。しかし、ここで見落とされているのが、労働基準監督官の不足に象徴される、職場環境を守る監視体制のお粗末さだ。
労働法違反の摘発を進めるためには、一般企業への定期監督等の業務の一部を民間事業者に委託することで、悪質な企業への「臨検」(立ち入り検査)に力を入れられるようにする「集中と選択」が不可欠である。
厚生労働省によれば、雇用者1万人当たりの監督官の数は、独1.89人、英0.93人、仏0.74人に対して日本では0.53人と、先進国のなかでは米国0.28人に次ぐ低さである。しかもこれは監督官の資格保有者数であり、管理職や労基署以外の勤務者を除いた実際の実働部隊はその半分といわれる。とくに企業が集中する首都圏では監督官の不足は極端で、東京23区では一人の監督官が約3000事業所を担当することになる。
こうした人員制約がある中でも、平成26年には定期監督の対象となった約13万事業場のうち、約7割の事業場で法違反が摘発された。この違反内容は、労働時間(30.4%)、安全基準(28.4%)、割増賃金(22.1%)等が上位を占めている。
臨検を増やせば、さらに違反事業場が見つかり、労働者の保護が確実になるにもかかわらず、それが十分に行えないのが現状である。厚労省は、長時間労働企業の特捜部隊として「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」を設けたり、労働基準監督署での相談業務に労働省OBや社労士等を活用したりているが、焼け石に水といえる。
駐車違反の取り締まり業務は
小泉改革で民間委託が実現
必要な公共サービスの量に比べて公務員数が不足する場合の切り札が官業の民間開放である。