ダイソンがシンガポールにR&D拠点「新テクノロジーセンター」を開設し、オープン初日、メディアに公開する──そんな案内が届いたのは1月中旬のことだった。

「何事も経験だ。面白そうだから行って見てこい」。新人記者に、編集長から、取材の命が下った。

「ただし、格安航空券とホテル予約サイトを駆使して、ギリギリまで安く抑えるように」。ついでにLCCの体験レポートまで書いてこいと言わんばかりの編集長に、ちょっとした国内旅行より安い見積もりを自慢たっぷりに提示し、初の海外取材に出かけることになった。

「世界No.1の空港」に認定されているシンガポール・チャンギ空港に降り立った。羽田深夜発のフライトは全く眠れなかったが、ターミナルが3つもある(ターミナル4も建設中)巨大な空港にわくわくしながらMRT(電車)に乗り込む。

 節約出張なのでもちろんタクシーは使わない(MRTは10分の1程度の価格で移動できるのだ)。空港の地下を抜けて視界が開けてくると、緑と共に高層のマンション群が目に付く。シンガポールの国民の大半はHBDという団地に暮らしている。地震や台風が少ない平坦な土地であるため、高層化や個性的な形に建てられている住宅も多い。

英ダイソンが技術者を惹きつける「シンガポール」という選択デザイン性が高いHBD(団地)は人気が殺到し、入居は抽選になる

 車内に目を向けると乗客は一様にスマホを操作している。シンガポールは多くの公共施設でWi-Fiが通っており、日本よりもIT化が進んでいるのだ。

 お目当てのダイソンのR&D拠点「新テクノロジーセンター」は、2017年2月13日、IT系の新興企業がオフィスを構えるサイエンスパークに開設した。アジアを中心に世界中から報道陣が詰めかけており、ジェームズ・ダイソン氏が現れると、いつの間にか報道陣の後方を取り囲むように集まっていた社員たちが歓声を挙げた。ダイソン氏は創業者であると同時に同社のチーフエンジニアである。技術のトップ、会社の象徴に向ける賞賛の声なのかもしれない。