岩手県洋野町が「社会的ひきこもり」状態にある人の過半数を40歳以上が占めるといった、訪問調査の結果を、3月11日に学会で発表する。「ひきこもり期間」は長期化し、ひきこもる人たちの高齢化が進んでいる。彼らの親も年老いていく中、全国で何十万もの世帯が“親子共倒れ”の危機に直面している。(ジャーナリスト・池上正樹)
「社会的ひきこもり」者は40歳以上が過半数を占める──。岩手県洋野町の調査から判明したデータとその分析結果が3月11日、岩手公衆衛生学会で報告される。
ひきこもり実態調査は内閣府も昨年9月に公表したが、こちらは調査対象が39歳まで。ひきこもり現象が社会問題化する中、中高年層で状況が一層深刻化していることを、国でなく、小さな町が明らかにしたのだ。
三陸海岸と山に面した洋野町は人口約1万7000人。地方にある他の市町村と同様に高齢化が進み、65歳以上人口の割合(高齢化率)が35%に上る。
同町の地域包括支援センターは15歳から64歳の町民を対象に、ひきこもり調査を実施した。
きっかけは、保健師が介護保険サービスの情報を提供するために70代の高齢者宅を訪ねたところ、すでに要介護の認定を受けているにもかかわらず、介護サービスの利用を辞退したことにある。
玄関先に立つその高齢者は汚れた服を着ていて、生活に支障が出ている様子。それでも「必要ない」「大丈夫」と言うばかりで、なかなか玄関から先に入れてくれなかった。
それでも何度も訪ねて事情を聞き出してみると、実は働いていない40代の子どもが同居し、10年以上ひきこもっていることが分かった。その子どもに将来の生活費を残すために、お金を使いたくなかったのだ。
「周囲に迷惑を掛けられないから」「家の恥だから」と、困っていても声を上げることができず、家族ごと孤立していく──。同町はそうした現実を目の当たりにして、同じような家庭が多いのではないかと、大きな危機感を抱いた。
調査を実施するに当たって、同町は「ひきこもり該当者」を「社会参加(就労、家庭外での交遊)を回避し、原則的には6カ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態の者(他者と関わらない形での外出をしている場合も含む)」と定義した。