宅配業界の問題が世間を賑わせているが、「アマゾン=ヤマト危機の原因」という構図が世に広まれば広まるほど、ヤマトがもうひとつ抱えている「爆弾」から世間の目がそれていく。その爆弾とは、「横浜」だ。(ノンフィクションライター 窪田順生)
ヤマトの広報戦略から
感じられる「狙い」とは
ヤマト運輸が27年ぶりに値上げを検討していることがわかってから、連日のように宅配業界の今後の動向を占うニュースが社会を賑わせしている。
先日はヤマトと佐川急便、日本郵便の3社が連携し「一括配送」を強化するとして、高層ビルからやがて一軒家まで広げていく方針を発表。ドローン配送や宅配ボックスの整備など、ドライバーの負担軽減のために何ができるのかが、盛んに論じられているのもご存じのとおりだ。
これは非常に素晴らしいことだと思う。
物流の未来を論じることは、来たるべき人口減少社会のインフラを真剣に考えることだ。一過性のブームではなく、これを機にぜひ国民的議論へと発展していただきたいと心から願う一方で、「情報戦」という視点でこの現象を見ると、先ほどとはやや異なる印象を抱く。それをズバリ言わせていただくと、こうなる。
「さすがヤマト、うまいことやるなあ」
いったい何がうまいのかということをご理解いただくためには、いまの「世論」を整理しておく必要がある。先ほど触れたようなニュースでは、今回の値上げの背景について、往々にしてこのような解説がされている。
「アマゾンの取扱量が急増していることで、ヤマトの現場が限界に達している」
佐川急便も限界だと放り出したし、先月はヤマト運輸労組も荷受量を減らすように求めている。どう考えてもアマゾンこそが問題の核心だろ、という声が聞こえてきそうだ。もちろん、筆者もこの見方を否定するつもりは毛頭ない。ただ、このような「アマゾン=ヤマト危機の原因」という構図を世に訴えれば訴えていくほど、ヤマトがもうひとつ抱えている「爆弾」から世間の目がそれていく。
ヤマトの広報戦略からはそのような「狙い」が感じられる、ということを申し上げたいのだ。