《神奈川平川町支店のドライバー2人は配送業務で使う端末の稼働時間を労働時間として所長に提出。しかし配送業務終了後も、顧客データをパソコンに入力したり、報告書を作成したりしていた。このため端末の稼働時間と実際の勤務時間が月30時間以上違う時があり、一部について残業代の不払いが認定された》(2016年11月17日 日本経済新聞)

 この8月に、ヤマト運輸はドライバー2名の未払い残業代があることを認めたが、支払う額とドライバーらが主張する額に大きな隔たりがあった。たとえば、会社側は57万円(約327時間分)の残業代を払うと申し出たが、ドライバー側はそんなもんじゃなく、171万円(約637時間分)あると主張したのだ。

サービス残業なしで
ヤマトは成長を続けられるか

 こういうやりとりがなされていることは、この時点ではメディアはまだ報じていない。しかし、11月16日にドライバーと代理弁護人が会見をしたことで明らかにされた。当時は電通の女性社員が過労自殺をした問題が世間の注目を集めていたので、これまでなら未払い残業代問題などスルーしてきた大手マスコミも、会見には押しかけた。その際にメディアが築いた「情報網」に、「未払い残業代調査」の内部情報が引っかかったというのは、容易に想像できよう。

「横浜」の2人のドライバーから上がった声が、7万6000人に調査を実施するという動きにまで発展したことからもわかるように、実はこれはヤマト運輸にとってアマゾン以上に頭の痛い問題である。

 既にいろいろなところで論じられているように、日本の宅配ビジネスの品質を支えているのはドライバーの「頑張り」である。「今月は残業が多くなったのでもう帰りますね」なんて働き方をすべてのドライバーがしていたら、即日配達や地獄の再配達千本ノックなどできるわけがない。それはヤマトもしかりで、この会社の好調さはドライバーの「サービス残業」が支えている側面も否めない。

 ヤマト運輸にはドライバーが約5万4000人いるという。仮に2年間のサービス残業代が1人100万円なんてことになったら、540億円である。今期の営業利益がほぼ吹っ飛んでしまう。仮に半額だとしても経営へのダメージは計り知れない。

 もっと言えば、サービス残業を調べて払うということは、今後はサービス残業なし、ということになる。電通が残業時間を引き下げ、22時になると強制的に全館消灯しているように、厳しい網がかけられて、果たしてヤマト運輸はこれまでどおりの成長を続けられるのか、という問題がある。かといって、SNSで囁かれるように「お前、まさかサービス残業代を請求するつもりじゃないだろうな」と各支店で店長がネグッているような事実が発覚したら、「ブラック企業」として一気に大炎上してしまう。

 つまり、ヤマト運輸の経営幹部にとって「ドライバーのサービス残業」というのは「進むも地獄、退くも地獄」ともいうべき悩ましい問題なのだ。「横浜」方面からのリークによって、その地獄の蓋が開きかけたのが、3月4日の「未払い残業代調査」報道だったというわけである。

 だが、ヤマト運輸という会社がすごいのはここからである。