風呂好きの日本人にとって、ヒノキの風呂桶といえば、憧れの存在だ。しかし、そのヒノキ風呂が存亡の危機にあるという。材料である良質な天然ヒノキが不足しているためだ。その原因や再生の動きなどを探った。(取材・撮影・文/ジャーナリスト 木原洋美)
「木曽ヒノキ」の風呂桶は
もうじき作れなくなる
2016年の暮れも押し迫ったその日、長野県南木曽町の山中にある志水木材産業の工場では、56台ものヒノキの風呂桶が、仕上げの時を待っていた。出雲大社(島根県)近くに建設中のホテルに納品される予定だという。
国産材需要の落ち込みが深刻視される時代に、なんとも景気のいい話ではないか、と思いきや……。
「こんな立派なヒノキの風呂桶を、まとまった数作るのは、これが最後でしょうね。よくご覧になって行ってください」
社長の志水弘樹さんは、硬い表情でつぶやいた。
同社が手掛けるヒノキ風呂は木目が細かく、最高品質とされる木曽ヒノキ製。樹齢250年以上の天然木だ。