東日本大震災を発端とした今夏の電力供給不足は、「電力使用権」の多様な取引、あるいは電気料金の引き上げなど市場機能と価格メカニズムを最大限活用して、社会経済の効率性を犠牲にせずに乗り切ることが重要だ。また、電力不足を一時的現象としてとらえず、必要とされる電力を電力会社が安定的に提供してくれるという考え方を根本的に見直し、国民一人ひとりのライフスタイルのなかで省エネと創エネを実現していく取り組みが必要になる。それが、スマートコミュニティの構築である。
1.「電力使用権」取引を活発化 市場に資源配分機能を委ねよ
東日本大震災直後、東京電力の供給能力が大幅に欠落し、緊急措置として実施された計画停電が社会に大きな混乱を招いたことは記憶に新しい。3月の震災直後に3000万キロワット強まで落ち込んだ供給力は、その後の火力発電所の復旧などにより4月には4000万キロワット以上まで回復した。
さらに東京電力は、ガスタービン発電設備の新設、長期停止中の老朽火力発電の運転再開、夜間の余剰電力を使って水を汲み上げ昼間に発電する揚水発電などにより、今夏に向け5000万キロワットを超える供給力の確保を目指している。
ただし、柏崎刈羽原子力発電所の1号機(110万キロワット)と同7号機(135万6000キロワット)が8月中に定期検査に入り、また老朽火力発電や揚水発電は確実性の点で不安が残るため、実質的には5000万キロワットを超える大幅な供給力の上積みは難しい。
これに対し、今夏のピークの電力需要は5500万~6000万キロワットと予想されている。したがって、500万~1000万キロワット程度の供給不足が見込まれる。
電気は大規模かつ安価にためておくことが困難である。このため一瞬一瞬、電力の需要と供給がバランスされなければならない。一瞬でもこの需給バランスが崩れると、広範囲な地域に及ぶ大規模停電が起きる。
少し古いデータであるが、「東京圏における大規模停電の生活・経済影響調査」(フォーラム・エネルギーを考える、1993年)の推計によれば、1都3県で夏場に3日間電力供給が止まった場合、1兆8000億円の経済損失が生じるという。この推計には他県への影響は含まれていないので、首都圏の経済活動の停滞が他地域へ与える影響を考えれば、損失額はさらに大きいであろう。
今夏に深刻な電力供給不足が予想されることから、政府の電力需給緊急対策本部は、夏期ピーク時の瞬間最大使用電力の抑制目標を提示し、大口需要家(契約電力500キロワット以上)、小口需要家(同500キロワット未満)、一般家庭に一律15%の削減を求めることを決定した。
特に、全需要の約3分の1を占める大口需要家に対しては、電気事業法27条に基づいて強制的な電力の使用制限を行う。同法に基づく措置は、第1次石油危機の際の74年にも実施されたが、当時は使用する電力の総量の制限であった。今回は、日中ピーク時の電力の需給ギャップが問題となるため、瞬間最大電力の制限が行われるという違いがある。
ところが、この強制的な電力使用制限に対して、大口需要家からは「企業や業種ごとに個別の事情があるから、機械的に一律15%の削減幅を課されるのは不満だ」という声も聞こえてくる。
実際、生産プロセスの安定性が重要な業種では、いったん生産を始めたらフル稼働・連続運転が必要となるであろう。ほかにも、個別に見ていけばそれぞれの事情は千差万別だろう。しかし、マンパワーの限られた規制当局がすべての個別事情を精査して個別の削減幅を協議により決めていくのでは、非効率極まりない。