東京電力・福島第一原子力発電所の事故は、私たちに様々な問題を提起した。夏場の電力不足への対応という短期的課題だけでなく、原発存続の是非や、電力の供給体制のあり方といった中長期的な政策に及ぶ議論が一気に噴出している。環境エネルギー政策の第一人者として知られる飯田哲也・環境エネルギー政策研究所所長が、問題の本質をひもとき、合理的な解決策を探求する。連載第1回はその総論を提示する。

遅れる事故対応と情報開示に
G8では世界の見方も冷ややか

 3.11東日本大震災から約3ヵ月が経つ。損傷した東京電力・福島第一原子力発電所の復旧作業は依然続いているものの、安定化のメドは未だ立たない。

 世界の見方も厳しさを増している。

 G8サミットで異例の冒頭発言の機会を得た菅直人首相だが、「原発事故の現況や情報開示」の意見表明には具体性がなく、「2020年代に自然エネルギー電力20%」というメッセージも冷ややかに受け止められた。それどころか、事故調査に訪れているIAEA(国際原子力機関)から、事故対応の責任の所在が官邸・政府・東電の間で混乱している、と指摘され、日本の対応能力に疑いの眼差しが向けられている状況だ。

 3.11以前に掲げられていた「2030年までに発電量の50%を原子力発電でまかなう」という、昨年策定されたエネルギー基本計画は、ほとんど根拠もない妄想的な計画であり、白紙として見直しが始まったことは当然であろう。

 私はこの際、エネルギーの軸足を原発から自然エネルギーに移す、大胆な“エネルギーシフト”を目指すべきと考える。その要諦は大きく二つ、「自然エネルギーの飛躍的な拡大」と、無理のない「省エネルギー・節電の深化」だ。

 今回を初回とする連載で各論に踏み込んでいく。第1回は、そもそもエネルギーシフトを目指すべき背景を明らかにしたい。

今夏の電力は足りる! 
腰を据えたエネルギー計画を

 最初に、今夏の電力需給について言えば、関東圏の供給力や過去の需要量を検証する限り、電力不足は回避できる。つまり、目先の対策に振り回される必要はない。10年、いや50年の計で、エネルギー計画を考えるべきだ。