フランス・クリュアス原子力発電所Photo:PIXTA

2023年にドイツが国内全ての原発の運転を止めた「脱原発」が話題となった。だが、自国の安全面・環境面に配慮した取り組みの一方で、実は隣国・フランスの原子力発電をセーフティネットとして使っている側面もある。こうしたエネルギー問題を例に、“リスクバランスの重要性”と“ひとつの面にとらわれない大切さ”について考えていこう。※本稿は、竹内 薫『フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、ディスカヴァー携書)より一部を抜粋・編集したものです。

人間社会を崩壊させる
「0か100か」の思考

 医療事故や、技術的な事故はどうしても完全に防ぐことはできません。飛行機だって落ちるし、インターネットのサーバーもダウンする。ワクチンの副反応の事例もそうです。

 ただそこで、100%安全じゃないから、メカニズムがわかっていないから、すべて使うのをやめるとなると、おそらく人間の社会は崩壊してしまうのではないでしょうか。科学技術というものが、存在できなくなるからです。

 世の中には科学でも解明できないことはたくさんあるし、100%安全と言えないこともたくさんある。それでもみんなで相談しながら、うまく使っていくしかありません。

 大事なのは、リスクをどう見積もるかです。その際に注意してほしいのが、見積もりは定量的に、つまり数値をもとに行うこと。割合や確率を一切見ずに、0か100かで論じられてしまうケースが非常に多いんです。

 0か100かの思考でいるとどうなるか。ロケット打ち上げに1度失敗したら、ロケットはやめましょう。自動車事故が起こったから、自動車は禁止にしましょう。もちろん自転車も禁止。公園の遊具で子どもがケガをしたから、遊具はぜんぶ取っ払いましょう。

 こんなことをしていたら、何もできなくなっちゃいますよね。でも実際にこのようなことが、いろいろなところで起きています。

リスクバランスがうまい
ドイツの「脱原発」

 2023年、ドイツが「脱原発」をしたことが話題になりました。これも、リスクをどう考えるかの話ですね。原子力発電、火力発電、再生可能エネルギーのリスクをそれぞれ考えたうえで、今のところ、原子力発電をやめる結論を出しています。

 ドイツは、相当強くリスクのことを考えています。というのもヨーロッパの場合、送電線がヨーロッパ中でつながっています。そのため、たとえば原子力発電をやめて再生可能エネルギーだけにした場合でも、電力が足りなくなればお隣のフランスなどから電気を輸入できるのです。

 一方で、天候が良く、たくさんエネルギーができて余っているなら他国に売ることもできます。そのやりくりが、1日とか1週間といった単位で行われています。そしてドイツがすごいのは、結果的に輸出のほうが多くなって、儲けていることです。