まず、エネルギー計画の大前提は「原発がどうなるか」である。

 福島第一の事故があった以上、安全審査・安全基準はいったん無効の状況と言える。損害賠償の枠組みも、原子炉1基あたり1200億円、しかも天災の場合は免責になる点を考えれば、いわゆる“保険”の意味をなさない。

 今の原発はいわば、自動車を無車検・無保険運行しているようなものだ。「陸運局」すら存在しない状態である。早急に、安全基準や規制、それを取り巻く組織と人を総入れ替えしなくては、原発の安全性は担保できない。

 特に安全基準については、基準をつくる人と体制も抜本的に見直して、その新体制・新基準のもとで、初めて原子力施設の審査ができるようになる。保安院も安全委員も「原発は安全だ」という思い込みがあるうえ、そもそも専門性に乏しい。仲間同士で緊張感もなく馴れ合ったまま、チェック機能のまったく働かないデタラメな安全審査体制だったことが、誰の目にも明らかとなった。

 損害賠償の枠組みも、抜本的な見直しが必要だ。50年前に法が定められて以来、今日まで利用されることがまったく「想定外」の、「ホコリを被った竹光」に過ぎなかった。

 今後は、具体的な適用指針を定めることはもちろん、特にいざという時に国民に迷惑をかけることがないよう、原則として天災等の免責のない、青天井の損害賠償保険に入ることを義務づけるべきだ。これは、地震保険と同じ仕組み(カタストロフィ・ボンド)で原理的には可能となる。こうした「国民に負担を押し付けない新しい損害賠償の枠組み」の策定は必須だ。

 「体制と人の見直し」、「基準の見直し」、「国民に負担を押し付けない新しい損害賠償の枠組み」――この3つが整うまでは、原発の新増設と核燃料サイクルは直ちに凍結すべきである。

既存の原発の運転を担保する 
安全基準の策定は急務

 その上で既存の原子炉はどうするか。

 もっとも厳しい立場に立てば、全原発の即時停止となる。それを避けたいのであれば、地域の首長や住民の合意を得ることのできる最低限の「仮免許的」な判定基準と、ある程度の損害賠償の枠組みを大急ぎでつくらねばならない。それをもとに、既存の原発に対して、バックチェック(ストレステスト)をしっかりと実施し、それぞれの原発を動かすか否か判定する必要がある。

 5月14日に菅首相が中部電力に対して浜岡原発(静岡県御前崎市)の停止要請をした。3月15日に7基の古い原発停止命令を出したメルケル独首相に比べてあまりに遅すぎる上に、「要請」という中途半端な姿勢、他の原発を止めないという「冷や水」をかけるメッセージは、大きなマイナス点だった。とはいえ、私自身も国民も高く評価している。

 しかし、これはあくまで、そうしたバックチェックの第一号として、停止要請したということにしなければ道理が合わない。その基準をほかの全ての既存炉にも適用しないと、逆に不安をあおる。そればかりか、今後1年以内にすべての原発が定期検査で停止した後に、地方自治体の同意が得られないために、一基も動かせない事態を招くに違いない。