「活用なくして保存なし」
本当のがんは文科省!?

 ご存じのように、全国ではさまざまな観光列車SLが走っており、日本で唯一、営業運転している大井川鐵道には国内外から鉄道ファンだけではなく、観光客も訪れているという。このように活用と保存を両立できたのは、鉄道会社や地元の支援者などが手を取り合って進めているからだ。

「観光マインド」のある役所によって、救われた「公園のSL」もある。

 福岡県の芦屋町には、全国でも4両しか現存しない「D60 61」というSLが、やはり公園で野ざらしで展示されていた。塗装がはがれて腐食が進み、ガラスも割られ、部品も盗まれた。それを町が産業遺産として活用する方針を打ち出して予算化。鉄道愛好家たちに修復をしてもらって見事、蘇ったのだ。

 鉄道産業文化遺産の保存と活用を目指している東武鉄道SL復活運転プロジェクトのホームページには、「活用なくして保存なし」という言葉があるが、これはすべての文化を守っていくのに通じる考え方だ。つまり、日本の伝統文化を守っていきたいのなら、「観光資源として活用」という視点が必要不可欠なのだ。

 そのような意味では、山本大臣が釈明時に発した「学芸員の方たちも観光マインドを持ってもらう」という主張は、特に間違ってはいないのである。

 ただ、それは観光客を増やしてガッポガッポ金儲けをしようという近視眼的な考え方からではなく、歴史や文化を後世に遺すという学芸員の本来の役割に基づいた考え方である。

 残念ながら現状としては「観光マインド」は個々によってばらつきがある。観光マインドのある学芸員もいるが、「そういうのまったく興味ないんで」という学芸員も多く存在する。

 この問題を突き詰めていくと、学芸員資格を所管する文部科学省に原因の一端があるのは明らかだ。「平成27年度学芸員資格認定試験問題」を見ても、「観光資源としての活用」に関わる出題は以下のようなザックリとしたものだけだ。

《近年、博物館経営においても新規来館者やリピーターの獲得および顧客満足度の向上などにおいて、マーケティング的な視点が重要視されつつある。上記の定義を参考に、 博物館経営においてマーケティングをどのように考えるかについて400字以内で論述しなさい。(20点) 》

 こんな観念的な問いかけしかされてこなかった学芸員たちに、いきなり具体的に「観光マインドを持て」というのは、あまりにも乱暴ではないのか。

 今回の大臣発言を受けて「学芸員たちは決して待遇が良いわけではないのに頑張っていて立派だ」という意見がたくさん出たが、この待遇が良くないという問題も根本をたどっていくと、リターンがない故に、文化に対する予算が付きにくいという問題に行き当たる。これは「観光振興」という発想をそもそも持たない役所が、「活用なくして保存なし」という視点が不可欠な文化財や、学芸員資格を管轄してしまったことで引き起こされたシステムエラーである。

 本当に「がん」なのは学芸員ではなく、文部科学省ではないのか。