ニューヨークと東京を往復し、世界中の書籍コンテンツに精通するリテラリーエージェント大原ケイが、トップエリートたちにいま、読まれている話題の最新ビジネス書を紹介する好評連載。第7回目は、「売れてる本」の共通点について。 

「売れてる本」の共通点は「大河ドラマ」っぽさにあった

『21世紀の資本』『サピエンス全史』の次にくる本は?

 情報が氾濫し、時代の潮流が見えにくくなっているためだろうか、最近は「大きな話」の本が求められていると感じる。スマホで手軽に読めるように短く簡潔にではなく、複雑な問題を複雑なままに一人の人間が語り尽くすナラティブ、というスタイルで書かれた本だ。

 2014年にトマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)が、そして2015年にユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』(河出書房新社)がアメリカでも評判になった。どちらも原作から英語に翻訳された本(『21世紀』はフランス語、『サピエンス』はヘブライ語)で、tome(トゥーム)と呼ばれるほどの大作(『21世紀』約700ページ、『サピエンス』500ページ弱)にもかかわらず、ベストセラーとなった。

 そして今年に入ってから望まれているのはおそらく今の、そしてこれからの世界情勢をひとつの大きなうねりとして、縦横無尽に英知をあてはめて紡ぎ出す、重厚な大河ドラマのような本ではないだろうか。

 日本国外のニュースといえば、EU離脱を決めたイギリスの「ブレグジット」国民投票、アメリカでのトランプ政権誕生、そしてナショナリズムを掲げる有力候補との一騎打ちになるフランスの大統領選挙など、どういう力が作用しているのか誰かに説明してもらいたくなる出来事が続いている。

 これらは、それぞれの国で起きた別の出来事ではなく、国境を超えた歴史の流れの一部として捉えられている。EUやアメリカの政治問題だけでなく、中東やアフリカ北部で一向に収束する兆しのないイスラム教原理主義者によるテロ、そしてこれらの動きが日本とアジア諸国にどんな影響を与えるのか、これから世界はどの方向に向かってどう変わっていくのか、毎日の断片的なニュースをいくら積み上げても歴史というものが見えてこないことがある。こういう場合はやはり広い見識を持った歴史家が世界を俯瞰して大きなテーマで論じた本が読みたくなるのではないか。