残業で疲れた夜や慌ただしい朝、せめて電車ではゆっくり座って移動したい――。そんなビジネスマンの切実な願いを実現する「座れる通勤列車」の導入が各路線で相次いでいる。一定の需要がありながらも、なかなか導入が進まなかった有料座席指定列車、それがここ数年で急激に増えた背景とは?(取材・文/松原麻依[清談社])

“痛勤”電車から解放される!
座れる電車はサラリーマンに大人気

 3月25日、西武鉄道・東京地下鉄・東京急行電鉄・横浜高速鉄道が共同で座席指定席列車の運行を開始した。区間は所沢-豊洲(平日運行)、西武秩父-元町・中華街(土休日運行)で、乗車運賃に510円を上乗せすれば確実に座ることができる。車内は電源やWi-Fiも完備。平日は朝夕のラッシュの時間帯に運行されるため、都内への通勤客からの需要が見込める。

「座れる通勤列車」西武に続き京王も、導入が相次ぐ理由西武鉄道の座れる通勤列車「S−TRAIN」。平日運航便の指定料金は一律510円。サラリーマンでも気軽に利用できる金額だ。

 座れる通勤列車の導入は西武鉄道だけではない。2018年春には京王電鉄が、帰宅ラッシュの時間帯に新宿-京王八王子/新宿—橋本間で有料の座席指定列車を運行予定。さらに、ここ10年を遡ってみると、08年に東武鉄道が森林公園-池袋間を走る「TJライナー」の運転を開始した。

 15年12月からは京浜急行電鉄が、三浦海岸-品川・泉岳寺間を結ぶ有料指定列車、「モーニング・ウィング号」を導入している。どれも、通勤・帰宅の時間帯に集中して走る列車だ。

 ここ数年で「座れる通勤列車」は一気に増えたような印象を受ける。一方、鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は「ラッシュ時の座席指定列車の需要は前々からあった」と語る。

「確かに、2000年代に入って大手私鉄の路線で座席指定列車の導入が相次ぎましたが、座れる通勤列車自体は、それこそ1960年代から存在していました。有名どころでは、JR山手線の東京駅や上野駅と、神奈川や埼玉、千葉などのベッドタウンを結ぶ『ホームライナー』(『ホームライナー小田原』や『ホームライナー津田沼』など、区間によって名称が異なる)です。今以上に通勤ラッシュがひどかった80~90年代には、この乗車整理券を求めて徹夜で駅に並ぶ行列をよく目にしました」(同前)

 より混雑度合いの高い路線では、グリーン車ですら立ちっぱなしになる区間もあるというが、それでも「一般車両の混雑に比べれば」とグリーン券を購入する客も一定数いるそうだ。