今回の震災で、震源地から遠く離れた首都圏の高層マンションで、ゆったりとした揺れが長く続く現象を経験した人は少なくないだろう。これは長周期地震動と呼ばれる周期の長い揺れと、建物の揺れが一致したときに生じる現象だ。2003年9月の十勝沖地震の際に、震源地から約250km離れた北海道苫小牧市内の石油タンクの火災の原因の一つとして注目されたこともある。

 現在、日本の超高層の建物で、長周期地震動により、倒壊・崩壊する恐れのあるものはない。だが、長周期地震動で大きな揺れが発生し、建物の構造が変形すれば、配管やエレベータといった設備が損傷して、ライフラインが停まる恐れがある。また、天井材や内壁材、外壁材がはがれたり、家具が転倒したりして、居住者の身を危険にさらすこともある。

 このため国土交通省は現在、首都圏、中部圏、近畿圏の3大都市圏で高さ60m超(約20階以上)の高層の建物(免震建築物を含む)に対し、新たな規制の検討を始めた。その中身は、建築する際、想定される大規模地震で長周期地震動が発生しても、建物や設備に損傷をもたらさない構造計算を義務づけるというもの。

 既存の建物については、まず、地震の影響をコンピュータ上でシミュレーションし、影響の再検証が必要な物件を調査。建物の所有者が再検証した結果、長周期地震動の影響が大きいと想定される建物については、構造計算をやり直し、必要に応じて補強工事を行うことを要請する。

 調査の対象となるのは、首都圏を中心に約2500棟ある高さ60m超の高層建築物だが、これには、ここ10年で急速に増えたタワーマンションも含まれる。

 国交省では、実際に再検証の対象となる物件は数%程度に止まると予測しているが、問題は、長周期地震動の影響を所有者に再検証させる際、強制力がないことだ。仮に、既存のタワーマンションで構造計算をやり直した場合、最低でも50万~100万円程度の費用がかかる。補強工事が必要となれば、億単位の改修費用が必要となる。管理組合側の負担は決して小さくはない。

 新しい規制が導入されても、巨額の費用がかかるとなれば、タワーマンションで再検証や補強工事が進まない恐れがある。

 実際、分譲マンションに関しては、旧耐震基準で建てられた物件さえ、費用がかかるため耐震診断や耐震補強が十分に行われていない。

 ただし、再検証や補強工事をしないことは、タワーマンションの所有者にとっても諸刃の剣。中古でタワーマンションを買う消費者は、万が一でも、「ハズレ」をつかむ可能性があるなら慎重になる。そのため、長周期地震動への対策が示されていないタワーマンションは価格が下落するはずだ。

 現在、国交省は2月末までに募集した建設・不動産業界からの意見や、3月に発生した東日本大震災による膨大なデータを解析し、規制導入の時期を探っている。「具体的な対策義務化の時期や詳細な内容については未定」(住宅局建築指導課)と説明しているが、業界内では「来年度中までには実施されるのではないか」との見方が強い。

 これまでタワーマンションは、値崩れの起きにくい物件として新築も中古も人気が高かった。今回の震災をきっかけにタワーマンションブームには急ブレーキがかかっているが、長周期地震動への対策が新たな選別のポイントに加わりそうである。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)

週刊ダイヤモンド