テレビ出演多数の人気臨床心理士が、幸せを引き寄せる口ぐせの数々を、脳への効果や医学的理論を基に解説。今回は、気を付けたい口ぐせ「絶対に」についてです。

「絶対に」を使うと、人間関係がギスギスしてしまう

「絶対」という言葉が、がんじがらめにする

「絶対に」を使うと、人間関係がギスギスしてしまう山名裕子(やまな・ゆうこ)
やまなmental care office代表。臨床心理士。 1986年、静岡県浜松市生まれ。幼い頃から両親が一番の理解者であったが、身内ではないからこそ話せることもあるのだということに気がつく。心理学系大学を卒業後、夢に向かって努力を重ねるが、努力だけではどうにもならない挫折を味わい、自信をなくす。その後もう一度心理学を学び、臨床心理士として活動するため、大学院にて心理療法の心得や技術を習得する。2013年、臨床心理士の資格を取得。心の専門家、臨床心理士として「モーニングバード」(テレビ朝日)、「あさチャン!」(TBS系)、「Rの法則」(Eテレ)などメディア出演多数。また、有名企業から教育機関などで講演活動も精力的に行っている。主な著書に『バカ力―完璧をめざさない強さ―』(ポプラ新書)『一瞬で「できる男」と思わせる心理術』(宝島社)がある。

 話の端々で、「絶対に」という言葉を使う人はとても多いですね。特にカウンセリングをしている時、よく聞かれる言葉です。同じような言葉に「~すべき」もありますが、これらの言葉は、自分自身を苦しめてしまう言葉なので要注意です。

「絶対に○○しなければ」と口に出した途端、失敗が許されなくなります。自分で自分に、厳しいルールを課してしまっているのです。でも、この世の中において法律や規則以外に「絶対」なんて存在しません。

 例えば、「ダイエット中には、甘いものや高カロリーのものは絶対に食べてはいけない」と自分に言い聞かせる方がいますが、ダイエットを続けるにはたまにはご褒美も必要なはず。「絶対」を付けることで、逆に必要以上に甘い好物を意識してしまい、強いストレスを感じる方もいるはずです。目標を達成するために、自分で自分を律することは大切ですが、「絶対」という言葉でがんじがらめにしないように気を付けてください。

 また、「絶対に」や「~すべき」は、人と人とのコミュニケーションをギスギスさせてしまう言葉でもあります。この言葉を使った時点で、相手の行動や言動を否定しているからです。

 以前、ある企業の役員の方が、「部下は上司よりも後に帰るべきでしょう?」と話しておられました。でも、それはその方の勝手な固定観念です。

 今の世の中、仕事が終わっているのに上司がいるから帰れないなんてナンセンスですし、ダラダラ残業するよりも、効率を考えてテキパキ仕事をこなせる人のほうが評価される時代です。それに、早く帰った部下は、とても重要な用事があったのかもしれません。そういう部下の事情を測ろうともせず、無視している言葉だと感じました。世の中には「絶対」や「すべき」ことなんてそうそうないということを理解してほしいですね。

「絶対」「~すべき」と似たようなシーンで、「あり得ない」という言葉を使う人も多いですね。特に地位が高かったり、スキルが高かったりする方に多く見受けられます。

 そういう方は、自分を基準に評価するので、「何でみんなこんなこともできないんだろう?」と周りを下に見てしまう。その結果、「こんなミスをするなんて、あり得ないよな」などと言ってしまうんです。この言葉が、どれだけ周りを傷つけるか。

 でも、よくよく考えてみてください。「あり得ない」と文句を言っている時点で、現実には「あり得ている」んですから、そもそも言葉のチョイスがおかしいですよね?

 私のメンタルケアオフィスにカウンセリングにいらしたある社長さんが、この「あり得ない」を連発する方でした。ご自身がとても優秀でいらっしゃるだけに、周りが頼りなくて仕方ないんですね。常に不安だし、歯がゆいしで、とても疲れておいででした。

 そこで、「あり得ない」を言いそうになったら、まずは冷静になって「これはあり得ていることなんだ」と理解するようアドバイスしたところ、肩の力がふっと抜けて楽になったとのこと。そして、「あり得ない」と部下を糾弾するのではなく、「あり得ている事実をまずは解決しなければ」と前向きな行動に移せるようになったそうです。

 この社長さんのように、「絶対に」「~すべき」「あり得ない」の言葉が口をついて出そうになったら、一回冷静になってみましょう。そして目線を下げて、「絶対ではない」「あり得ている」事実を受け止めてみると、その原因のほうに目が向くため怒りが静まり、どう対応すべきか行動に移せるようになります。それがひいては会社や部下の成長につながりますし、何より自身の成長にもつながりますよ。

 同じような例ですが、人は育ってきた環境や経験によってさまざまな色の色眼鏡をかけています。自分の「普通」や「常識」、「当たり前」が他人には当てはまらない可能性があることを今一度理解しておく必要があります。

「こんな大事なことを話しているのに、君はなぜメモを取らないんだ。メモ取るべきだろう」と叱る方がいます。しかし、メモを取るよりもまずはきちんと耳で聞いて覚えたい方もいれば、雰囲気や表情から感情を読み取って記憶する人もいるのです。タイプや性格も人それぞれ違うということを忘れないでくださいね。

『幸せを引き寄せる「口ぐせ」の魔法』の本文の一部を掲載しました)