「あのアップルとて、成功するとは限らない」。
テクノロジー業界関係者がそう語っているのは、アップルが6月初めに発表したクラウドサービス「iCloud」についてである。
アップルがiCloudを発表したのは、毎年恒例の開発者会議(WWDC)でのこと。病気で療養中のスティーブ・ジョブズCEOまで登場しての、大変な気の入れようだった。
iCloudは、いわば個人ユーザーのためのストレージサービスである。音楽、映画、写真などのコンテンツや、予定表、住所録、ドキュメント、アプリケーションなど、これまで自分のコンピュータに保存していたものをインターネット上の自分のアカウントの中に置き、いつでもどこでも、そしてどんなデバイスからでも引き出せるようにしたものだ。
たとえば音楽の場合、通常なら自分のコンピュータを使い、アップルのコンテンツストアーであるiTunesを利用して楽曲を購入、それをコンピュータのハードディスクに貯めていた。iPadやiPhoneに楽曲を移したい場合は、USBコードでコンピュータにつなぎ、手作業で移行を行う必要があったのだ。
それがクラウドになると、それぞれのデバイスからクラウドのアカウントにアクセスするだけで、楽曲が聴けるようになる。コンピュータの中味を気にする必要も、USBコードを探す必要もない。実に自由で身軽、またモバイルなスタイルで自分のコンテンツを管理、利用できるというわけだ。
iCloudは、クラウドが本格的に消費者レベルにまで降りてきたことを感じさせるものである。これまで、企業向けのクラウドの話はよく聞いてきた。企業向けクラウドは、自社で機器を揃えたり、サーバを準備したりする必要もなく、大型コンピュータに相当する処理能力とストレージを簡単に手にする方法として話題になっている。
消費者向けのクラウドは、基本的には同じ仕組みなのだが、現時点では重心がちょっとだけ違う。それはコンピュータ処理能力よりも、ストレージが重要で、しかもそこに異なるデバイスでアクセスできること、デバイス間で簡単にシンクロできることが大切なのだ。