ネット上で大炎上した神社本庁の「日本人でよかった」ポスター。5月3日の憲法記念日前後の護憲派vs保守派のヒートアップを分析していくと、このポスター炎上も情報戦の一端だったことが透けて見える。憲法改正を巡るフラットな議論をしたいのなら、こうした情報戦には気をつける必要がある。(ノンフィクションライター 窪田順生)
神社本庁のポスターが大炎上!
ネットで侃々諤々の議論に
ゴールデンウィークの連休に入る直前、ネット上では1枚のポスターをめぐる論争が起きていた。
微笑む女性と日の丸があしらわれたそのポスターには、「私、日本人でよかった。」というコピーがつけられており、下の方にはやはり日本の国旗とともに、「誇りを胸に日の丸を掲げよう」なんて呼びかけがされている。制作したのは、全国の神社が加盟する「神社本庁」である。
これを京都市内で見かけたというTwitterユーザーが投稿した画像がまたたく間に拡散され、「気持ち悪い」「外国人観光客がみたら異常だと思う」「誰がなんの目的で?」という否定派と「日本人でよかったと思うことが、なにが問題なの?」という肯定派の間でバチバチのバトルが繰り広げられたのだ。
これに火に油を注ぐ形となったのが、「モデルの国籍」だ。ネット民たちが持ち前の調査力を活かし、ポスターの女性が大手写真画像代理店「ゲッティ イメージズ」が管理している女性のイメージ画像と酷似していることをつきとめた。問題は、彼女がプロフィールで「中国人女性」となっていること。これで一気に「大炎上」となった。
「愛国」を呼びかけるプロパガンダ広告が、実はそういうイデオロギーを掲げる人が忌み嫌う他民族の方の写真を使っていた、というブーメラン的な現象というと、ナチスの「最も美しいドイツ・アーリア人の赤ちゃん」を思い浮かべる方も多いだろう。
ナチスがヨーゼフ・ゲッベルス国民啓蒙・宣伝相のもとで、国民に対してさまざまなプロパガンダを仕掛けたことは有名だが、実はその一環で「最も美しいドイツ・アーリア人の赤ちゃん」を選ぶコンテンストなんてものまで催されていたことはあまり知られていない。
そこで週刊誌の表紙を飾ったかわいらしい生後7ヵ月の赤ちゃんは、国民に「ドイツ人でよかった」と思わせるのに効果てきめんだったが、近年になってから衝撃の事実が発覚する。
なんとこの赤ちゃん、ナチスが忌み嫌ったユダヤ人だったのだ。
アメリカへ逃げたご本人が名乗り出て、その時の表紙をホロコースト記念館に寄贈したとAFPが2014年7月に報じている。