だがこれまで、米国や中国がそこまで北朝鮮を追い詰めたことはなかった。中国が北朝鮮の体制崩壊を許容できない事態と考えてきたからある。北朝鮮が崩壊すれば大量の難民は中朝国境を越え、約2000万人の人口のうち40%近くを占める朝鮮族が居住する延辺朝鮮族自治州になだれ込むと考えられる。このような難民の流入は、少数民族問題に敏感な中国にとってどうしても避けたいのだろう。

 また、結果的に北朝鮮が国家として崩壊し、韓国によって統一されるような事態になると、現在の米韓相互安全保障体制が続く限り、米国の影響が中国の国境まで及んでくるということになる。中国はこれを安全保障上の脅威と捉える。

 また韓国や日本を含む近隣諸国にとっても、北朝鮮崩壊の過程で戦乱が起ればおしなべて被害を受けることとなり、核物資の拡散も起こりかねない。このような事態を怖れ、中国のみならず米国・韓国・日本も北朝鮮に徹底的な圧力をかけることには躊躇もあった。

核・ミサイル開発の進捗に対する
危機感でトランプ政権は姿勢を変化

 しかし、トランプ政権はここに来て北朝鮮問題が最優先の課題であるとして、中国に対する強力な働きかけに踏み切った。なぜであろうか。2つの理由が考えられる。

 第1には、北朝鮮の核・ミサイル開発の段階が進み、米国の安全を脅かし得る新しい段階に来たということである。米国東海岸に届くような長距離弾道ミサイルに手が届くところまで来ているとされ、核弾頭の小型化もあわせ、今後1〜2年が大変重要であるという認識があるのだろう。第二に、オバマ政権は「戦略的忍耐」と称された政策の下で北朝鮮問題に積極的に行動することを避けてきたが、トランプ政権の反オバマ姿勢は顕著であり、国内の施策が数々の困難に直面している状況下で、オバマとは違うとして北朝鮮問題で行動する道を選んだと見ることができよう。

 こうしてトランプ大統領は米中の貿易問題よりも北朝鮮問題を優先する姿勢を見せ、中国が行動することを求めた。さらに、中国が行動しないのであれば米国が行動すると言い放ち、米韓合同軍事演習も活用し空母カールビンソンを朝鮮半島に送り込むとともに、巡航ミサイルで攻撃し得る地域まで米艦隊を展開させた。米国の決意を示す上では、米中首脳会談の夕食会の最中にシリア空軍基地に59発の巡航ミサイルを撃ち込んだことも効果的であった。

6回目の核実験をやらせないと
圧力を強める中国

 米中間では今後とも北朝鮮の孤立を図るべく相当厳しいやり取りが続くのだろう。米国はその過程でいわゆる「二次的制裁」に踏み切る可能性がある。すなわち、北朝鮮と取引がある中国の銀行や企業も制裁の対象に加えるということである。

 中国にとって今年は、9月に共産党大会が開催され、今後5年の体制が決まる重要な時期にある。また、高い経済成長の維持は国内安定のためにも必須であり、北朝鮮問題との兼ね合いで米中摩擦が激化することも好まないのであろう。北朝鮮問題を現状のまま放置する、あるいは北朝鮮の一層の核ミサイル開発を容認することは中国に大きなコストをもたらす結果となる。