ここで問題になるのは、何に期待しているのかという〔期待の要素〕と、どのくらい期待しているのかという〔期待の高さ〕です。

これまでの美容院や床屋に対する期待を変えた
QBハウスのイノベーション

 一般の床屋や美容院が顧客に期待を抱かせているのは、技術に裏打ちされたファッション性や接客サービス、店の心地よさなどです。多くの店がこれらの要素を競争の軸にしてサービス競争を繰り広げています。期待値を高めさせ、実際のサービス提供で実感値を高めようと、過剰ともいえるサービス競争に精を出しています。

 一方でQBハウスが顧客に期待を抱かせているのは5つの“手軽さ”で、その他はほとんど期待を抱かせていません。つまりQBハウスは、従来の床屋や美容院とは別の〔期待の要素〕を業界に持ち込み、競争の軸を変えてしまったのです。

 実際に「10分、1000円、カットのみ」というサービスを実現させるためには、徹底した店舗運営の効率化や、回転率を上げるための集客力も必要になってきます。

 最初にご紹介したトイレの脇への出店も、集客力を高めるためのアイディアのひとつです。その他にも店舗設備を統一して初期投資を減らす工夫をしたり、従業員のカット以外の仕事を極力減らしたり、さまざまなアイディアで「10分、1000円、カットのみ」のビジネスモデルを実現しています。

 QBハウスが東京の神田に1号店を出したのは、1996年で今から15年前のこと。その後積極的に出店を続け、現在では国内413店舗、海外54店舗を数えるまでに急成長しました。もちろん日本の理髪店チェーンでは一番の規模です。

 QBハウスは、古くからある業界で成長性に乏しい業界でも、今までになかった顧客の潜在的に期待する要素を見抜き、徹底的に追及していけば、新規参入でも充分に戦っていける可能性を示しています。