そんな歴史を振り返りながら、最近出版された認知症に関わる単行本を読むと、まさに隔世の感がする。認知症の本人たちが、自分の心の内を語り始めた。社会が押し付けるさまざまな誤った観念に、ノーと叫びだした。

『恍惚の人』から45年も経っている。45年もかかってしまったと見なければならない。あまりにも長い月日だ。

当事者の生の声に耳を傾ける

 今の時代の認知症を取り巻く動きを知るには、当事者の生の声が最もふさわしい。認知症当事者、藤田和子さんの思いが綴られた『認知症になってもだいじょうぶ!』(徳間書店)が4月末に発刊された。

 看護師として勤務中の10年前にアルツハイマー病と診断された。3人の娘の母親でもある。アルツハイマー病の義母の介護を9年間続けてきた8年後に本人が同じ疾患に。

「認知症のことは『介護』問題として語られているけれど、実は人権問題としての『認知症問題』ではないか」と考える。さらに「今の世の中は認知症の人にとってとても生きにくい。私は早期診断につながり家族や仲間に理解され暮らしを続けていけるけど、世の中にある偏見は早期受診を妨げている。このままではいけない。本人としての思いを社会へ発信していかねばならない」と決意する。

 地元の鳥取県で、「若年性認知症問題にとりくむ会・クローバー」を立ち上げ、さらに2014年10月には日本で初めての当事者団体「日本認知症ワーキンググル―プ」(JDWG)を作り、3人の共同代表の1人となった。

 本書は藤田さんがfacebookに投稿してきた短い文章を主軸に、その後の聞き取り内容を組み合わせて構成したユニークな作りである。聞き取って「編集補助」者になったのは、「全国マイケアプラン・ネットワーク」代表の島村八重子さん。

 介護保険のケアプランは「本人が主体的に作るべき」と訴えている。「人生の主役は自分」「本人本位」という主張と藤田さんの思いが重なり、共同作業に取り組んだ。

当事者が実名で語る

 16人もの認知症の当事者が実名で語るのが『認知症になっても人生は終わらない』(harunosoraハルノソラ)。

 2015年12月14日に放映されたNHKテレビの番組に基づいて編集した、こちらもユニークな作りのドキュメント本である。

 16人を代表して「まえがき」に登場するのは丹野智文さん。トヨタ車のトップセールスマンだったが、4年前の39歳の時に若年性認知症と診断された。4月末の京都市で開かれた認知症の国際会議で開会のあいさつを堂々と述べ、今や当事者運動の先頭に立っている。

 本書では、認知症と共に生きる人たちから、同じ境遇の人に向けてのメッセージが連なる。「同じ悩みの仲間と話し合うと、暗黒の世界に希望の光が見え始めます」「自分が楽しいと感じることをするのが重要」と。

 社会への訴えもある。「病名でひとくくりにしないで欲しい。人によって症状は違うので」「ゆっくり待ってくれれば、できることはたくさんある」。

 2004年にやはり京都市で開催された認知症の国際会議では、実名でマイクの前で話した日本人は1人だった。認知症への世間の偏見は強く、手を上げる当事者は極めて稀だった。それが、さまざまなメディアによって次々本人たちの暮らしぶりが伝わる時代になった。