経営陣を巻き込め

 もう1点、重要なことがあります。こうしたことはとても人事担当者単独でできることではありません。経営陣を巻き込んで、全社での取り組みとすること。つまり「経営陣と握ること」が重要です。

 というのも、ここまでお話ししたことは、単年で果たせたものではありません。この結果が出るまでには、社内の理解を得る活動が必要でした。

 私が始めた採用活動の初年度の結果から、いかに自社が採用活動に不利な状況であり、採用のリソースを必要としているかということを、経営陣に向けて事実をもとに数字で説得していったのです。

 特に、採用担当に多くの人数が割けない中小企業の人事担当者にお伝えしたいのは、なによりも大事なのは、まず、経営陣の理解を得ること、わかりやすく言えば「経営陣と握ること」なのです。このことは、最も強調してお伝えしたいことです。

 なぜなら、採用活動は企業の未来を築く根幹となるものであり、経営者にとっても重要なことであって、これから会社をどうしていきたいのか?という意思そのものが反映されることだからです。

 つまるところ、採用戦略とは、企業の経営戦略そのもの。だから、経営の理解を得てバックアップを受けることが重要であり、必須のことでもあるのです。

 当時、私は採用戦略について、経営陣と「三幸製菓という会社をこれからどうしていきたいのか?」という企業の方向性について徹底的に話し合いました。新潟の一ローカル企業として続けていくのか、ナショナルブランドとして全国に、その先に世界へと打って出るのか。経営陣の意思決定は「高成長を続け、ナショナルブランドとして基盤を築いていく」ということでした。そのためには、採用活動は新潟だけでなく、全国エリアから優秀な人材を採用していくことが必要になるということです。

 このように、経営陣との議論をもとに、経営陣と握り、採用資源を得ながら、1万3000エントリーという規模の学生エントリーを獲得できるように変化していきました。

 その結果、面接に来てくれる学生や採用できる学生が自社にとって優秀な方へと変わっていき、採用の“負け組”から少しずつ脱却することができはじめていったのです。

 ところが、今度は大量のエントリーを前に、馬車馬のように選考を行っていくなかで、「じっくりと向き合うことができていない」という問題に直面するようになります。1万3000名のエントリーの中から、わずか十数名を採用するということは、1万2000名以上を「落とす」ことに労力を割く、ということになる。それはお互いにとってハッピーな状況なのだろうか、と考えるようになりました。

 次回は、こうした「大量の母集団形成」という採用スタイルを見直すことで得た、新しい採用方法についてお伝えします。キーワードは「母集団採用からソーシャルへ」です。

(モザイクワーク代表取締役 杉浦二郎)