朝晩10分以上の歯磨きにもかかわらず
冷たいものが歯にしみるようになった
アパレル関係管理職Zさん(49歳)

キンキンに冷えた生ビールが
歯にしみて痛い

 Zさんはビジネスマン向けのスーツをメインに扱うアパレル会社でデザイン統括の責任者を務めている。今年は春夏の商談が終わったあとに、クールビスのアイテムを増やしたいというオーダーが取引先から入り、みんなが少しでも涼しく快適なように、素材、デザインなどを例年以上に吟味した。

 Zさんの部署では大きな納品が終わったあとに、デザイナー全員と打ち上げを行うのがならわしだ。その日の打ち上げは、夏らしくビアガーデンで開催された。枝豆、茹でたトウモロコシ、唐揚げにフライドポテト。目の前に並ぶ大好物にわくわくした。

 繁華街の屋上のビアガーデンは、昼間の暑さが嘘のように風が通って気持ちがいい。「乾杯」と片手をあげるときに感じる杯の重みまでが心地いい。持ち上げた大ジョッキはキンキンに冷やされて白い霜に包まれていた。

 しかし、毎日欠かさず飲む大好きな“黄金の液体”を喉の奥に流しこんだとき、これまで経験したことのない違和感に襲われた。「痛い!」。歯ぐきがしみるのを通り越して痛いのだ。その日は結局、口の中が気になって飲み会を楽しむことができなかった。

子どもの頃の歯医者への恐怖感から
朝・晩の念入りな歯磨きを欠かさない

 Zさんの母方の実家は、北関東の田舎で小さな歯医者を営んでいた。お盆やお正月に遊びに行くと、歯医者独特の消毒液の臭いがした。昔の歯科医院は、診察時間など関係なく、夜でも休日でも近所の患者が駆け込んでくる。そんなときZさんは、母屋から少し離れたところにある診察室から聞こえる子どもの泣き声を息を殺して聞いていた。「ウイーーン」という歯の削る音は、子ども心にとても怖かった。

「歯磨きをちゃんとしないと虫歯になるよ」

 歯科医である伯父と祖父の声が耳から離れない。Zさんは心に誓った。「絶対虫歯にならないようにしよう」、と。

 子どものころから朝・晩の歯磨きは欠かさなかった。そのお陰で歯医者にはほとんど世話にならずにこれまで過ごしてきた。40代になってからは、歯周病と口臭が出ないように、より念入りに歯磨きをした。毎日ごしごし力を込めて念入りに。夜更けに歯磨きをしていると、その日にあった嫌な出来事まで消えていくようだった。