「重い・暑い・ダサい」作業現場の“ガマン靴”をアシックスはこう変えた郡山智彦・グローバルコアパフォーマンス スポーツフットウエア統括部 開発部 コート開発チーム Photo:Satoru Oka/REAL

「ワーキングプロダクトの開発チームに入ってくれないだろうか」

 2012年、アシックスの中途採用に応募した郡山智彦は、最終面接の場で、こう告げられた。

 大学卒業後、日用品メーカーに就職。世界陸上などでテレビに映ったアスリートたちの足元に見えるアシックスのロゴマークに、ずっと憧れを抱いてきた。そんな郡山にとって、ワーキングプロダクトは耳慣れない言葉だった。

 ワーキングプロダクトとは、俗に「ガテン系」といわれる建設現場や工場の作業者らが使用する商品のカテゴリーを指す。中でも転倒、挟まれ、落下など、常に危険と隣り合わせである現場で履かれる作業靴は、足先に「先芯」という硬い素材が入っており、落下物などから足を守る“足のヘルメット”ともいえる存在である。

「アシックスが、労働現場で使う商品を作っていたとは全く知らなかった」と郡山は振り返る。その中で、「ウィンジョブ」という作業靴の開発チームに配属となった。

意気揚々と初参入
履きやすいのに売れない

 アシックスが作業靴を発売したのは1999年。同社は当時、スポーツ用品の知見を使った横展開を模索し、ウオーキングやメディカル向けのシューズを次々と販売していた。その後続として目を付けたのが、「ランニングシューズの3倍の市場規模」といわれる作業靴だった。

 作業靴はJIS(日本工業規格)の安全基準を満たすことが最優先。先芯には鉄が使用されているため重くて足が疲れる上、甲被(甲側の面)が分厚い皮革なので中が猛烈に蒸れる。また、先行メーカーは、現場で使用するもの一式を製造する企業がほとんどで、デザイン性は二の次。「重い」「暑い」「ダサい」の三重苦で、“ガマン靴”とも呼ばれていた。