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岸博幸のクリエイティブ国富論

“やらせ質問”の次は“やらせ人事”か
経産省幹部3人の更迭問題を考える

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
【第149回】 2011年8月5日
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 海江田大臣が経産省の幹部3人の更迭を発表しました。その前には、細野原発担当大臣が保安院を経産省から分離して環境省の外局にする意向を示しましたが、こうした動きはどう評価すべきでしょうか。

出来レースのやらせ人事は評価に値しない

 経産省の松永事務次官、細野資源エネルギー庁長官、寺坂原子力安全・保安院長という3人の幹部の更迭については、決して評価できないと思います。むしろ、この人事は海江田大臣の政治決断でも何でもなく、むしろ官僚と一緒に考えた組織防衛のための人事と見るのが正しいのではないでしょうか。

 官邸(菅首相とその周辺)は、原発事故などの責任という観点からこれらの幹部の更迭を狙っていたと聞きます。しかし、経産省の官僚の側からすれば、組織の人事にまで政治に手を突っ込まれるのは当然避けたいので、官邸にやられる前に機先を制して、経産省に対して理解のある海江田大臣のイニシアティブとして発表してもらった、と見るべきだからです。

 実際、この人事は経産省の官僚にとって損するものではありません。そもそも更迭される3人は、この夏の定期人事異動で辞職となっていておかしくない人たちばかりでした。それが震災で人事凍結という方針が官邸から出されて残留していただけであることを考えると、更迭でも何でもありません。

 つまり、経産省の官僚の側からすれば、原発事故などで大きな責任がある以上は無傷では済まないと分かっているので、保安院を経産省から分離することに加え、3人の幹部を形式上更迭することで、経産省という組織の防衛線を敷いたと見るべきです。

 一方、海江田大臣の側からすれば、浜岡原発の停止要請などで手柄を菅首相に横取りされてきたけれど、今回は自分の政治的な手柄とすることができました。民主党の代表選に出馬する可能性があることを考えると、原発事故以降ずっと世間の批判が強い経産省の幹部を形式上更迭することは、政治的に“美味しい”と思ったはずです。だからこそ、会見でも“人事権者は私”と強調していたのではないでしょうか。

 つまり、経産省の幹部3人の更迭というのは、組織を防衛したい経産省の官僚にとっても、そして政治家としての海江田大臣にとっても損のない選択なのです。このように考えると、幹部3人の更迭というのは、海江田大臣と経産省幹部による“出来レース”の人事と考えざるを得ません。原子力絡みでの“やらせ質問”だけでは懲りずに“やらせ人事”までやるというのは、いかがなものでしょうか。

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岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス・マーケティング株式会社取締役、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問も務める。

 


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