中国の米国債離れの可能性を、米連邦政府関係者らは「あり得ない話」と決めつける。しかし、それは傲慢というものだろう。内需シフトへの中国指導部の並々ならぬ決意は、米国債離れの合図であるとモルガン・スタンレー アジアのスティーブン・ローチ会長は説く。
中国は以前からずっと米国経済の活力に尊敬の念を抱いてきた。だが、米国政府に対しては、そしてその機能不全に陥った経済運営能力については信頼を失っている。筆者が最近、北京、上海、重慶、香港を訪問するなかでも、そうしたメッセージがはっきりと聞こえてきた。
その信頼を失わせる決め手となったのは、サブプライム危機の余波も消えぬなかで生じた債務上限と財政赤字をめぐる論争である。中国政府の上層部は、米国において金融の安定性が政争の材料とされることに仰天した。ある有力政治家は7月半ばにこう発言している。「実に驚いた。政治的な対立は理解できるが、それにしても貴国政府があいかわらず見境がないのには驚かされる」
米国が危険水域へと突き進んでいくなかで、中国は無関係な傍観者ではいられない。1990年代後半のアジア金融危機の後、中国は国外の激動から自国のシステムを隔離するため、約3兆2000億ドル相当の外貨準備を蓄積した。そのうち実に3分の2(約2兆ドル)は、米国債及び米政府系機関(つまりファニーメイ、フレディマック)が発行する証券類を中心とするドル資産である。その結果、中国は2008年末の時点で、米国の金融資産の保有高で日本を抜いて世界首位となった。
世界の準備通貨のうち、かつては比較的リスクが低いとされていたドル資産に、中国がこれだけ巨額の資金をつぎ込んだのは、投資としての安心感というだけの理由ではない。為替政策という点で、それ以外の選択肢がほとんどなかったのである。人民元とドルの密接なリンクを維持するために、中国は自国の外貨準備のうち不釣り合いなほど多くをドル資産に再投資せざるを得なかったのである。
だが、それももはや過去の話だ。中国は現行の成長戦略(つまり、輸出とドル建て資産による巨額の外貨準備に大きく依存する戦略)をこのまま続けることはもはや不合理であると理解している。中国指導部がこの結論に至った背景には、3つの重要な展開がある。