炭水化物、つまり主食をしっかり食べたほうが目の前の損得に影響されないようだ。独リューベック大学の報告から。

 研究は、経済心理学でよく利用される「最後通牒ゲーム」を使って行われた。このゲームは2人(提案者と承認者)で行うもので、例えば1万円を2人で分け合う状況を想定。提案者は1回に限り、シェアする金額を提案できる。

 承認者が提案を了承すれば、各自その金額を受け取れるが、拒否した場合、1万円は没収され2人とも何も得られない。

 経済学的には、提案者は最大の利益、つまり9999円を懐に入れるべきで、承認者は0円より1円のほうがまし、らしいが。しかし人間そうは判断しないだろう。

 実際、提案者はより五分五分に近い金額を提示する傾向があり、承認者はあまりに不公平な金額を「社会的制裁」の意味で拒否するケースが多い。

 まず、87人の大学生を対象に、昼食前に承認者としてオンライン版のゲームに参加してもらった。提案は「10ユーロのうち2ユーロを提供する」という不公平なもの。

 ゲーム終了後、学生たちの朝食内容を聞き取り調査した結果、高炭水化物の朝食を食べてきた学生の半数以上が、不公平な提案を拒否したのに対し、低炭水化物食では約25%にとどまった。

 次に24人の成人男子を対象に、ある日は(1)炭水化物80%、タンパク質20%の朝食を、別の日には(2)炭水化物50%、タンパク質25%の朝食を食べてもらい、ゲームを行った。その結果、(1)の高炭水化物食の後は、有意に不公平な提案を断ることが明らかになったのだ。

 研究者は「高炭水化物食の後は、脳の報酬系に関与するドーパミンの産生に必要なチロシン濃度が低下する」と指摘している。

 報酬系は「報酬が手に入る」という予想後、コンマ数秒で活性化するため、目の前の誘惑に逆らえない傾向がある。そのため、衝動的に不公平な提案を受け入れてしまうのだろう。

 この結果のみで食事を云々することはできないが、少なくとも大切な会議がある日は、主食をしっかり食べたほうがいいようだ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)