日本の学歴ヒエラルキーの頂点に立つ東京大学。官僚などが大学で教鞭をとる形などでの天下りは有名だが、実は東大教授が他大学へ再就職するケースも頻繁にあり、問題も多いのだという。それが私大をどれだけ破壊するのか。官僚の天下り問題や、旧帝大から私大への天下り的な再就職に批判を続けている元大学教授に話を聞いた。(フリーライター 光浦晋三)

肩書きにこだわるが何もしない
元東大教授が私大に与える弊害

ブランド力などをアテにして元東大教授を雇ったはいいものの、むしろ学内を引っ掻き回されるだけで終わるケースも少なくないという(写真はイメージです)

 かつて、定年を迎えた東大教授が私大に再就職するのは当たり前のことだった。近年は少子高齢化や大学の統廃合が増えたこともあって、その数こそ減っているが、他大学に比べれば東大教授の“ブランド力”は今なお絶大だ。

 東大教授の定年は65歳。定年前になると、多くの私大がモーションをかけて来るという。私大にとって、「元東大教授」という肩書きはかなり魅力的なもの。ある私大准教授は「東大教授として素晴らしい研究実績を残した教授が定年を迎えた後に、私大が招くことはあります。その教授の名前があるだけで 、ブランド力が上がりますからね」と語る。

 東大教授の再就職を受け入れるメリットはそれだけではない。東大教授の学生時代の同期には文部科学省の官僚がたくさんおり、東大教授は文科省官僚と密接な関係がある。そのため東大教授を“私学助成金の架け橋”として期待している側面もあるという。

 しかし、私大が元東大教授を受け入れることには弊害も多いという。警鐘作家の濱野成秋氏は東京大学研究員を経て早稲田大、一橋大、京都外語大、日本女子大などで教鞭を執ってきた。大学教授歴は40年近く、天下り官僚と戦う老教授を描いた小説「ビーライフ!白亜館物語」を著してもいる。そんな濱野氏は元東大教授が再就職先の私大にもたらす弊害をこう断言する。

「麗しき花園ともいえる私立大学は、東大勢がはびこると“不毛の砂漠”となり果てます。三流の私大では学科長クラスの待遇で迎えるわけですが、東大の人は“親方日の丸”のメンタリティですから、生徒集めの苦心などはまるで知りませんからね。それでも意見は言うし、周りも受け入れざるをえない。その結果、入試志願者が激減してしまうことになる」

 濱野氏が経験してきた実例を挙げてもらった。

「定員の5割減になっても、『今年は定員割れした』と他人事のように言うだけ。『定員割れとは96%で終わったときに言うセリフであって、5割減になってまで何を言うか』と、どやしつけた先生もいた。常識的判断しかできないし、過当競争でしのぎを削っている私大を経営的にサポートしようという気が全然ない。責任を取らないくせに、要職には就きたがる権力志向があさましいほど強い」

 運営費交付金で手厚く保護されている国立大学の中でも、東大は特に安泰。そんな環境の中で生きてきたため、私大にとって大切な学生集めに関心もなく、当然のように愛校心もない。結局のところ、何もしない人が多いのだという。

「有名予備校の経営者が建学した、埼玉県にある某法科大学院では、当初、司法試験合格者数で東大に比肩できるぐらいの人気校にしようと、本郷の法学部の権威ある教授を高給で多数採用しました。ところが全員やる気がなく、ご自分が司法試験の審査員のくせに生徒をよう育てもせん教授たちだった。初年度も次年度も合格者数は数名という空振り三振ばかり。これが何年も続いて大学院経営はガタガタになった。経営者は神様を雇ったつもりになっていたら、とんだビンボー神だった、というお粗末です」