【図表1】に示すように、日本の貿易収支は、経済危機前は、毎月1兆円程度のオーダーの黒字を続けていた。それがリーマンショックで一挙に大幅な赤字となった。

 しかし、2009年の末頃から回復して、再び黒字が継続するようになった。

 それが、震災直後に再び大きな赤字になった。これは、リーマンショック後の状況と同じ状態だ。その後回復して、6、7月には黒字になった。しかし、額は700億円にもならず、経済危機前と比べると、大きく減少している。

電力制約が生産と輸出を抑制している

 今後はどうなるだろうか?

 貿易収支が現状より大きく増加する可能性は小さく、現在程度の状況が今後も続く可能性が高い。

生産が伸びず、輸出が伸びない

 このように考えられる理由は、いくつかある。

 第1は、輸出が伸びないと考えられることだ。

 【図表2】に示すように、鉱工業生産指数は、今年の4、5月には急速に回復したが、6、7月で頭打ちになった。この原因としては、為替レートと電力制約が考えられる。

電力制約が生産と輸出を抑制している

 為替レートで円高が進んでいるのは事実だ。しかし、この傾向はこれまでも続いてきたものであり、ここに来て急に加速したわけではない。

 また、貿易に影響を与えるのは、通常問題とされる名目の為替レートではなく、各国間の消費者物価指数の伸び率の差を考慮に入れた「実質為替レート」だが、これで見れば、まだ大幅に円安だ。実質実効為替レートで見ると、過去のピーク(1995年)に比べるとまだ5割ほど円安だ。また、2000年頃と比べても、3割ほど円安である。

 したがって、円高が輸出頭打ちの直接的な原因とは考えにくい(ただし、「円高が海外移転を促進し、それによって生産の海外シフトが起こり、輸出が減少する」ということはありうる)。

 なお、こうした事情があるので、日本が介入しても為替レートのトレンドにほとんど影響を与えることはできない。また、先般のG7(先進7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議)でも見られたように、「日本の円高が重大問題」という日本の主張には、国際的な理解が得られない。