男性化粧品「ウル・オス」の母、会長が決めた発売中止を覆した執念櫻井千秋・大塚製薬常務執行役員 Photo by Masato Kato

 1980年発売の「ポカリスエット」、83年発売の「カロリーメイト」……。「新たな市場を創り出す」をコンセプトに掲げ、大塚製薬ニュートラシューティカルズ(「ニュートリション=栄養」+「ファーマシューティカルズ=医薬品」の造語)関連事業は数々の製品を世に送り出してきた。

 そのラインアップへ2008年に加わったのが、男性スキンケアブランド「ウル・オス」だ。決して平たんではなかった開発の現場には、今ではウルトラの母ならぬ「ウル・オスの母」と呼ばれる現コスメ事業総括、櫻井千秋の姿が常にあった。

 大塚製薬にとって、スキンケア領域に挑むこと自体は既定路線だった。90年にスキンケアの研究所を滋賀県大津市に建て、地道な研究を続けてきたからだ。

 スキンケア製品第1号は研究所設立から15年後の05年、ウル・オスのお姉さんブランドに当たる女性化粧品「インナーシグナル」。男性の肌の健康も大切だということで、続いて「男性用も出そう」という方向性まではすんなりと決まった。

 では、どこにターゲットを絞って、どんな製品を出すか。「ヒントは現場である売り場にあるはずだ」と考えた櫻井とその上司は、首都圏を中心にドラッグストアなど100カ所ほどを「あほみたいに」(櫻井)見て回った。

 櫻井の回想では、当時の男性化粧品売り場は現在の3分の1ほど。そこには「イケメン願望」を持つ若者向けスキンケア製品、年配者向けの「香りがきつい」スキンケア製品が並んでいた。ところが、ボリュームゾーンであり、徐々に老いを感じ始める中高年向けを明確にした製品がない。「30代後半~40代をメーンにアピールすれば、必要性に気付いて使い始めるのでは」。櫻井たちはそう考えた。