「従来と同じクオリティの挙式+披露宴が約半額の総費用で実現しました」
こうした過激なキャッチフレーズを売りにしている婚礼プロデュースサービス「スマ婚」が急成長している。株式会社メイションが運営している。約2年半で5000組以上をプロデュースする人気ぶりで、新郎新婦には朗報に聞こえる。だが実際には、安くなっていることは稀で、「品質面でも疑問がある。こんな商売がまかり通れば、業界全体が信頼を失うことになる」(結婚業界関係者)と危惧する声が広がり始めている。
婚礼プロデュースとは、結婚式場選びを支援するサービスだ。新郎新婦はスマ婚に相談に行き、そこで提示されたホテルやレストランの中から式場を決定する。婚礼内容を相談して費用を払う相手はあくまでスマ婚であり、スマ婚がホテルなどに対して飲食・会場使用料などを支払う。費用の後払いが可能なので、ご祝儀を支払いにまわすことができる。
では、スマ婚の実態はどうなっているのだろうか。
新郎新婦はまず、東京、大阪、名古屋など6地域にあるショールームを訪問する。東京23区内の場合、提携しているレストラン、ホテルなど約100式場から選ぶ。式場のパンフレットはなく、場所や会場レイアウト、サービス内容はパソコン上で見る。
カウンセラーはスマ婚がいかにすばらしいかを説明する。「従来の結婚式が300万~400万円かかるのに対し、スマ婚なら半額の150万~200万円」、「結婚式費用はご祝儀でほとんどまかなえる」と繰り返し説明される。品質は従来のままだという。
ただ、こうした説明は事実と異なる点が少なくない。当編集部の独自取材によると、スマ婚の費用は直接式場と契約するのと同等というケースが大半だった。
ホームページには料金の記載がない。取材により料金体系は以下の通りであることが分かった。ゲスト1人につき、ホテルであれば3万円前後、レストランであれば2万円前後の飲食・会場使用料などがかかる。例えば、東京ヒルトンで3.7万円、ホテルフロラシオン青山で3万円、レストランのアラスカ神保町で2.6万円だ。婚礼期日が近い場合1割程度安くなることがある。そのほかはチャペル使用料、装花、ドレス、引き出物、カメラマン、プロデュース料などで70万~80万円かかる。
各式場のサイトや結婚情報サイトで調べれば分かるが、これらは式場と直接契約した場合とあまり変わらない。
結婚式の中身でも問題が生じている。新郎新婦と式場の間にスマ婚が入ってマージンをとっているため、「その分コストダウンしないと割が合わないから、料理内容をグレードダウンせざるを得ない」と、ある提携式場はこぼす。グレードダウンの手法はさまざま。料理の皿数を少なくしたり、一皿あたりの量を削ったりするほか、ウエイターの人数を削ることもあるという。ちなみに試食は基本的にはできない。
とはいえ、広告宣伝のうまさからスマ婚は順調に実績を伸ばした。それを見て、ライバル他社も安さを前面に出した「○○婚」と銘打ったサービスを開始している。ただし各社のサービスや運営体制は微妙に食い違っており、玉石混交というのが実態だ。利用者は結婚情報サイトを見たり、直接式場に確認したりして、適切なサービス内容・価格であるかどうかをチェックしたほうがいい。
例えばレストランウエディングであれば、「1・5次会.com」は、会費制ウエディングを提案している。各式場は3プラン程度を掲載しており、ゲスト1人あたりの価格とプランに含まれる内容が細かく見られる。新郎新婦のことを本当に考えているのなら、こうした情報公開は欠かせない。
国民生活センターのPIO―NETによると、結婚式関連サービスのうち、「表示・広告」に関する苦情・相談は08年度の20件から徐々に増加しており、09年度は33件、10年度は47件に達している。注意が必要だろう。
結婚式場業界では、解約しようとする人に高額な解約料を請求するトラブルが多発していたが、業界団体作成のモデル約款が広まることなどにより、改善されつつある状況だった。今回のような誇大広告といわれても仕方がないと思われる商法が広がれば、再び業界全体の信頼を失うことになりかねない。
スマ婚を運営するメイションは当編集部の取材に対し、「最終的にかかる総費用は、どの式場でも40~60%割安になっている」と主張している。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 野口達也)