大阪市はなぜ「生活保護受給者」
を引き寄せてしまうのか?

吉村大阪市長が「大阪市が生活保護受給者を呼び寄せている」と解釈し、対策が必要と主張する「福祉のマグネット」現象とは何か

 私から見ると“過激”な生活保護制度運用の数々で、絶えず話題と論点を提供している大阪市の動きが、2017年7月以後、さらに活発だ。きっかけは、大阪市・大阪市大が合同で行った、ビッグデータを利用した生活保護の実態検討結果が、2017年7月に公開されたことだ。

 この検討結果は、そもそも“ビッグデータ”と呼べるものであるかどうかも含めて数多くの疑問が持たれる。もちろん、大阪市大の研究者たちは、「こういうトレンドは見られるが、だからといって『これが原因だ』とは言えない」「方法や元データの限界を考えると、『だから、こう対策すべき』とは言えない」と慎重な態度を示している。

 そうでなければ、研究者の世界で恥ずかしい思いをするだろう。しかし検討結果は、大阪市長・吉村洋文氏によって、早速“ひとり歩き”をさせられ始めている。私は“ひとり歩き”というより“暴走”と呼びたい。

 今回は、吉村大阪市長が「大阪市が生活保護受給者を呼び寄せている」と解釈し、対策が必要と主張する「福祉のマグネット」現象を取り上げる。

「福祉のマグネット」とは、「社会福祉の充実した自治体が周囲から福祉を必要とする人々を引き寄せ、その自治体の財政が厳しくなる」という現象だ。「福祉のマグネット(磁石)」論は、大阪市や日本が発明したわけではなく、教育と再分配に関する数多くの研究で知られるポール・ピーターソンが1981年に提唱した概念として、世界中で広く知られている。

 もっとも、ピーターソンが「そのままでは自治体間がマイナスの福祉競争を始めるため、国が介入して自治体間の格差是正を行う必要がある」と主張したことは、日本ではあまり知られていないようだ。もちろん、吉村大阪市長も言及していない。

 右のグラフは、大阪市大と大阪市が2017年7月7日に発表した資料に含まれているものだ。横軸は、大阪市民になってから生活保護を受給し始めるまでの期間で、2005年・2010年・2015年のいずれでも、「1ヵ月未満」が目立つ。

 もっとも、「大阪市民になった日」とは、住民票上の大阪市民になった日であり、「大阪に居住し始めた日」ではない。地方の経済状況の悪化により失職した人々、加齢など何らかの理由で「雇われ力」が低下した人々が、「大都市なら仕事があるだろう」と考えて大阪にやってきた場合、すぐに住民票を移していることは、むしろ少ない。