人間が他人の不倫に
ひどく反応してしまう理由

 フィンランドの人類学者、フライとソーダーバーグが2013年、科学誌『サイエンス』に興味深い研究を載せている。彼らは、20近い遊牧採集民族の「攻撃行動」を観察した。これらの民族は人間が文明的生活を手にする以前の、原始的な生活をしている。

 人類が文明を手に入れたのは、たかだか最近の6~7000年のこと。それ以前の数万年、つまり人類史のほとんどで、我々は文明など持たずに、移動を繰り返す狩猟採集生活をしてきた。このことから、今我々が持っている「社会性」と言われるものの多くは、この頃に培われたものだと考えられる。

 現在のような複雑な社会を持たない民族を研究することによって、我々の社会性の起源を探ろうというのが、この研究の目的だ。

 論文の中で、フライとソーダーバーグは、殺人に発展するような、暴力を伴う攻撃の多くは「集団内」で起こり、戦争などの「集団間」の攻撃行動は、予想されているよりもずっと少ないことを報告している。特に興味深いのは、集団内の暴力、特に死に至るような深刻な暴力は、個人間の復讐や男女関係のもつれによって起こっていることが多いという点だ。

 米国の文化人類学者、ボームも彼の著書『Hierarchy in the Forest』の中で、人類史の中で起こった暴力の多くは性に絡むもので、特に妻の浮気相手に対し、嫉妬に狂った夫が攻撃する、というのが殺人の中で最も大きな割合を占めると述べている。

 そして、人が嫉妬を覚えるときには、脳の報酬系と呼ばれる部位の一部や、「島」と呼ばれる原始的な負の感情(嫌悪や不快)を司る部位が活性化していることが、fMRI(MRIを使って脳活動を調べる手法)を用いた研究からわかっている。

 これらの研究が意味するのは、痴情のもつれの問題は、人間の脳の非常に原始的な感情を刺激してしまうということだ。特に社会的に悪いことをしたわけでもないが、不倫が表沙汰になってしまっただけで、人生が終わるような壊滅的な攻撃を受けるのは、人間の本性によるものなのだ。